老化するとがんになりやすいのはどうして?
がん患者の多くは高齢者です。老化とがんには深いつながりがあるのですね。高齢社会においてがんの罹患率は年々増加していますが、それはなぜでしょうか?もっとも大きい原因として、生命の設計図である“DNA”が関連しているわけです。ヒトの体は37兆個もの細胞が集まってできていますが、細胞にはDNAと呼ばれる遺伝物質が分裂して2つの細胞になるには、分裂前にDNAをコピーして2倍しておく必要があり、これをDNAの「複製」と呼びます。
DNAの複製は非常に精密に行なわれますが、ごく稀にミスを起こします。こうしたDNAの複製ミスが「変異」です。老化にともないDNAの修復力が低下するため、DNAの変異はより蓄積しやすくなります。DNAの修復が上手くできないと、DNAをミスコピーした細胞が誕生してしまうため、細胞のがん細胞化が進むと考えられています(下図)。
がん細胞の増殖に重要な遺伝子として「がん抑制遺伝子」と「原がん遺伝子」が挙げられます。がん抑制遺伝子は通常は細胞増殖の“ブレーキ”、原がん遺伝子は“アクセル”なのですが(下図)、普段は細胞に必須の遺伝子として機能している。ところが、これらの遺伝子に変異が起こると、がん抑制遺伝子による細胞増殖へのブレーキが効かなくなり、原がん遺伝子ではアクセルが全開になってしまう。ブレーキとアクセル、どちらかの機能が正常であれば、多くの場合はがん化に至りません。
ですが、両方に変異が起こってしまうと、細胞は増殖に対する自制を失い、無際限に増殖をはじめるがん細胞になってしまうのです。長生きし、高齢になると、その分だけDNAを複製ミスする確率や変異が高まるし、細胞の老化でDNAの修復力も低下する。だからがんが発生しやすくなるのです。
がんの発生は、これら以外にも複雑なメカニズムが関与しますが、老化した細胞のDNAの修復力を改善できれば、がんの発生が予防できるのではないかと考えられています。医学の進展もあって、今後のがん治療の研究がいやがうえにも期待されるところです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』監/長岡功
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』
長岡 功 総監修/ 野村 義宏 監修
高齢化や平均寿命が伸びた社会では、「老化」は誰もが避けられない、しかし誰もが可能な限り抗いたいテーマ。その多くは人体の「老化現象」、またそれに伴う「諸症状」として、完全には克服できないまでも、原因やしくみを知ってうまく対応すれば、症状を「やわらげる」ことや、日常生活での「影響を少なくする」こと、また「目立たなくする」ことが可能である。本書では具体的に、老化にともなう病気・諸症状の原因に言及し、その対処・対策法を解説、紹介する。中高年以降の健康と美容の悩みを楽しく読めて、一気に解決する一冊です。
公開日:2023.05.15