「定義」より「見た目」が重視される
植物学では、草のことを草本(そうほん)、木のことを木本(もくほん)といって一応区別していますが、本質的な違いはないとされています。樹皮の内側に薄い形成層があって、そこが細胞分裂を繰り返して肥大化し、やがて年輪を形成する植物は木本です。
その逆はいえません。たとえば木本のヤシの木の幹には形成層がありません。このため、形成層の有無は、草本と木本の区別の決め手にはなりません。形成層の有無にかかわらず、ざっくりと、幹や茎が木質化する植物を木本、それ以外の植物を草本とよぶことが常識的な線かもしれません。
多くの専門家が認める草本、木本のはっきりとした定義はなく、見た目による区別なのです。
しかし種子を作る高等植物は、裸子植物(ソテツ、イチョウ、マツなど)と被子植物(全陸上植物の90%)に区別できます。裸子植物は化石も含めてすべて木本です。一方、被子植物の祖先は裸子植物から進化したと推測され、裸子植物の後に出現しました。裸子植物の花には装飾的な花びらがなく、受粉はソテツの仲間(とグネツムの仲間)以外は風まかせです。
一方被子植物の花には花びらがあって、これが昆虫を呼び寄せ、蜜を報酬として受粉を確実なものにしたために大繁栄しているわけです。
さらに被子植物は、子葉(最初に出る葉)が2枚ある双子葉植物、子葉が1枚の単子葉植物にはっきりと区別できます。単子葉植物は原始的な双子葉植物から進化しました。約25万種ある被子植物のうち、約4分の1を占める単子葉植物は大部分が草本ですが、木本のものもあります。
これに対し、双子葉植物には草本よりも木本が多くあります。単子葉植物のヤシは木本ですが、年輪ができることは、ほとんどありません。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
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公開日:2023.04.21