五つの穀物と蚕の誕生
養蚕と農業のはじまり
【高天の原を追放されたスサノオ】
八百万(やおよろず)の神々は再び話し合いを行ない、その結果、スサノオノミコトに神々に供えるための贖罪(しょくざい)の品物を山ほど出させ、ひげと手足の爪を切ってお祓いをしたうえで、高天の原から追放することに決めました。
高天の原を追われたスサノオノミコトは、*オオゲツヒメノカミ(大気都比売の神)のところへ立ち寄り、食べ物を求めました。オオゲツヒメノカミは鼻や口、尻の穴などからいろいろな食べ物をとり出し、それを調理して差し出しました。
その様子を見たスサノオノミコトは、汚れた食事を出されたと憤慨し、すぐさまオオゲツヒメノカミを殺してしまいました。
殺されたオオゲツヒメノカミの体からは、さまざまな物が生まれました。頭からは蚕(かいこ)が、両の目からは稲の種が、両の耳からは粟(あわ)が、鼻からは小豆が、女陰からは麦が、そして尻からは大豆が生まれました。
そこで別天つ神であるカムムスヒノカミがこれをとってこさせて種にし、それが養蚕と農業のはじまりとなったのです。
*オオゲツヒメノカミ(大宣都比売の神)と同一の神。表記は原文に従う。
スサノオはオオゲツヒメノミコトに怒った。
オオゲツヒメノカミが生んだ五穀と蚕は、農業と養蚕のはじまりを象徴する。
農耕文化特有の神話
オオゲツヒメの「オオ」は「大」、「ゲ(ケ)」は「食べ物」をあらわす言葉で、穀物神であることがわかります。オオゲツヒメにまつわる神話の原型となっているとされている説話がインドネシアにあります。女神の死から食べ物が生まれるというストーリーは同じですが、インドネシアの説話の場合、女神の死からはイモが生まれます。日本でも古くはイモの起源として語られていたものが、稲作が広まることで、五穀の起源神話に変化していったと考えられます。
オオゲツヒメはすでに古事記に登場していた
オオゲツヒメは、イザナキとイザナミによる国生みの際、伊予之二名島(四国)のなかの阿波国の名前として現れています。なぜ阿波国の名をオオゲツヒメとしたのかについては、阿波を穀物の「粟」にかけたとも考えられますが、穀物神のオオゲツヒメが祀られていたために、“アワ”の国と呼ばれるようになったとする説もあります。
阿波国、現在の徳島県。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』監修:谷口雅博
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』
監修:谷口雅博 日本文芸社刊
時代を超え読み継がれている日本最古の歴史書『古事記』。
「天野岩屋戸隠れ」「八岐の大蛇」「因幡の白兎」など誰もが聞いたことがある物語をはじめ、「国生み・神生み」「天孫降臨」「ヤマトタケルの遠征」など、壮大なスケールで繰り広げられる神々の物語は、たんなる日本の歴史にとどまらない、興味深く魅力的である。
本書は『古事記』の上中下巻から、神話・物語を厳選して収録し、豊富な図とイラストで名場面や人物像、歴史的背景を詳解する。『古事記』の面白さ、魅力を凝縮した一冊!
公開日:2025.02.11
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