量子を見たくても見るのはとてもむずかしい!
量子力学が少しずつわかってきた1900年ごろになると、物理学者たちは量子が存在することの〝証拠〟がほしくなりました。彼らは「量子があるというのなら証拠を見せろ!」などと、子どものケンカ並みに拳(こぶし)を振り上げて激論しました。ですが、「量子を見る」ことはなかなかむずかしい。そもそも「量子を見る」というのは、2つ異なる現象を指している場合があるのです。
1つ目は、原子とか電子とか「1個の量子を見る」という意味です。たとえば電球からの発光は「光子」と呼ばれる量子の粒ですが、暗い部屋でも1秒当たり1兆個(10¹²個)程度目に飛び込んできます。それを本当に真っ暗にすると、光の粒が1個、2個と数えられるようになります。このように「数えられるような量の量子を見る」というのが1つ目の「量子を見る」という意味の表現です。
2つ目は、「量子の性質を見る」という意味です。バナップルがバナナとアップルの重ね合わせであることを確認したり、PART2-8項で取り上げている「量子テレポーテーションは本当に可能か見てみたい」などのように、「量子が量子らしく活躍する」様子を確認したいということで、これを物理学者は「量子性を見る」といいます。
ところが、どちらのケースでも「量子を見る」のは相当むずかしいのです。数えられる程度の量子を見るためには、そもそもの「物の量」を減らす必要があります。光なら実験室を十分に暗くする。酸素原子なら空気中に多過ぎる(1ℓ当たり10²²個程度)ため、空気を吸い出して酸素原子をわずかに残す。こうした技術が必要となりますが、これがかなりたいへん。
それに2つ目の「量子の性質を見る」では、量子フルーツの例で見たように、バナップルの正体を知ろうとすると「重ね合わせ」を放棄してふつうのフルーツになってしまう。そのために量子らしさをキープするには人の目から遠ざけなければなりません。いわば十二分な隔離が必要になるのですが、そうした作業をこなして、実験的に「量子を見る」というのは、難度がとても高いのです。
量子は本当にあるのか?
物理学者は数えられる量の量子を見ることを「量子レベルの小さなシグナルを見る」といい、「バナップルは本当にあるのか」などの量子の性質を見ることを「量子性を見る」と表現するが、そのどちらも見ることは非常にむずかしい。
重ね合わせの量子はスーパーシャイだ!
重ね合わせはスーパーシャイだ!
人の目から隔離するとのびのび
バナップル状態の量子重ね合わせは人に見られると、すぐにバナナとアップルに戻ってしまう。つまり「重ね合わせの量子はスーパーシャイ」。バナップルのような重ね合わせの量子をそのままキープするには、人の目から遠ざけなければならない。いわばひたすら隔離して、誰にも邪魔されないような環境をつくらなければ量子は活動しないのだ。
量子を見るにはどうすれば?
量子を見るには「物の量」を減らす必要がある。光を見るには実験室を十分に暗くしなければならないし、多過ぎる酸素原子を見るには真空ポンプを使って空気を吸い出さなければならない。要するに「空っぽ」の状態をつくらないと、光とか電子や原子が見られないのだが、そうした環境を用意することは意外とむずかしい。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』
著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
その登場以来、物理学の常識を打ち破り、宇宙・自然観から人々の生活まで一変させた革命的理論といわれる「量子(論)」。近年のノーベル物理学・科学賞の受賞者のほとんどが量子論と関わった研究者といわれ、特に注目を集めている。
生命・時間・物質まで、この世界の根本、宇宙全体にわたる究極しくみ、生活に密接に関わり、すべての常識やナゾを解くカギと言われる「量子」だが、とにかく難解である。この量子を一から読み解く一冊。
量子とはそもそも何か?
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公開日:2025.01.09