アジア人初の快挙を達成
「今までは“日本人にはできないんじゃないか”という考えがあったと思う。初めてのメジャーチャンピオンになって、そこを覆すことができた」
松山英樹がゴルフ4大メジャータイトルのひとつであるマスターズを、10度目の挑戦にしてついに制した。日本人、いやアジア人初の快挙だ。
マスターズは“球聖”ボビー・ジョーンズ(米国)が創設した由緒ある大会として知られる。
スコアが大きく動く第3ラウンドの“ムービングサタデー”で大会自己ベストの65を叩き出し、首位に躍り出た。
最終日(日本時間12日)を迎えるにあたり、2位・ジャスティン・ローズ(英国)とは4打差。マスターズに11回挑戦したことのある解説者の中嶋常幸は「4打差なんて、あってないようなもの」と心配していた。
1番をボギーでスタートしたが2番でバーディーを奪い、勢いを取り戻した。
しかし、本当の勝負は“サンデーバックナイン”。10番からの最終9ホールだ。
戴冠への試練は15番。3連続バーディーを取り、勢いに乗る同組のザンダー・シャウフェレ(米国)に引導を渡すには、主導権を取り戻す必要があると考えたのだろう。
「(仮に失敗しても)攻めていった方が悔いが残らない」
狙いは4番アイアンでの2オン。しかし、考えていた以上に打球が伸び、グリーン奥の池に。なんとかボギーでとどまったが、シャウフェレはバーディーを奪い、4連続バーディーで2打差に。
スポーツ全般に言えることだが、ミスにもいいミスと悪いミスがある。これは前者だった。攻めた結果のミスは、後になって生きてくる。
次の16番では、追いかけるシャウフェレが逆に池に入れ、トリプルボギー。守りの姿勢に入らず、攻めに徹したことが、ライバルにはプレッシャーとなり、勝利の女神の前髪を手繰り寄せる遠因となったのではないか。それが証拠に、シャウフェレは7番アイアンか8番かで迷っていた。風の影響もあったのだろうが……。
松山の言葉で、特に印象に残っているのは、ジャスティン・トーマス(米国)に逆転負けを喫した2017年の全米プロゴルフ選手権で発したものだ。
「ここまで来た人は、たくさんいる。ここから勝てる人と勝てない人の差が出てくる」
勝者と敗者を隔てる通路は、ほんの1センチ、いや1ミリ。数々の修羅場を経て、松山は“聖人”たちの仲間入りを果たした。グリーンジャケットを羽織った瞬間の晴れがましい笑顔は、日本晴れのように輝いていた。
初出=週刊漫画ゴラク2021年4月30日発売号