10年以上を費やして完成した世界一の人工壁
世界最長で最大の人工壁である万里の長城。この巨大建築事業は、ほとんどの人に始皇帝によるものだと思われていますが、正しくは、始皇帝以前の複数の国家によって建築・修繕が繰り返されてきた長城を、始皇帝が一つにまとめ上げた城壁です。
現在残っているものは、主に明時代(1368~1644年)に改装され、総長が6000㎞以上あります。さまざまな研究から、前漢(秦の後に興った国)時代には20000㎞を超えていたこともわかっています。
そんな万里の長城建設には、長年にわたる北方民族との戦いが関係していました。
秦・趙(ちょう)・燕(えん)などでは、中国統一前から北方民族の侵略を受けていました。そのため、各王朝は国境付近に長城を建設して、侵攻を防いでいたのです。
中国統一後、始皇帝は武将・蒙恬(もうてん)に、各国に点在している長城をつなげて、大きな城壁にするよう命令しました。
はじめはオルドスへの侵略防止を目的にした局地的なものでしたが、やがて匈奴(きょうど)の侵略防止という目的も加わりました。その結果、万里の長城建造は、10年あまりの歳月と何十万人という労働者が関わる大規模事業へと発展したのです。
北方民族との戦い:スキタイの影響を受けたモンゴル系の匈奴が、オルドス(黄河の湾曲部の内側)から中国に侵入することを防ぎたかった。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 始皇帝の話』
著者:渡邉義浩 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1962 年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科修了。文学博士。現在、早稲田大学理事・文学学術院教授。大隈記念早稲田佐賀学園理事長。三国志学会事務局長。専門は古代中国思想史。主な著書・監修本に『眠れなくなるほど面白い 図解 三国志』(日本文芸社)、『始皇帝 中華統一の思想―「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)、『教養として学んでおきたい三国志』(マイナビ新書)などがある。
紀元前246年、13歳で即位し、史上初めて中国を統一して500年の争乱の歴史に終止符を打った秦の始皇帝。歴史に残るその戦いと数々の偉大な功績、また謎に満ちた生涯、始皇帝を支えた多くの忠臣を、最新研究をもとに図解、イラストを交えてわかりやすく解説する。人気マンガ『キングダム』でも脚光を浴びた「始皇帝」の人物像と中華統一や数々の偉業の謎と軌跡に迫る。
公開日:2022.12.07