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WBC優勝監督、栗山英樹の人間力。腰は低く志は高く【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

「人の悪口を聞いたことがない」

 WBCで3大会ぶり3回目の優勝を達成した侍ジャパン。国内での視聴率は、軒並み40%を超えたというのだから、成績的にも興行的にも大成功を収めた。

 チームを世界一に押し上げた栗山英樹監督について聞かれたヘッドコーチの白井一幸は、あるテレビ番組で「人の悪口を聞いたことがない」と語っていた。

 周知のように、北海道日本ハムに大谷翔平が入団し、二刀流での成功を二人三脚で目指すと宣言した時、栗山はOBたちから非難の集中砲火を浴びた。

 2016年7月、福岡ソフトバンク戦で大谷を「1番・投手」で起用した際には、TBS系の人気番組「サンデーモーニング」で、ご意見番の張本勲から「喝だ! 栗山監督に喝だ!」と痛烈に批判された。

 言い返してもよさそうなものだが、栗山は「僕は何を言われても大丈夫です。もともと二刀流自体が批判されているわけだから」と、柳に風と受け流した。

 野村克也に対しても、そうだ。1984年にヤクルトに入団した栗山は、土橋正幸監督時代の86年には107試合に出場し、規定打率不達ながら3割1厘をマークしている。関根潤三監督時代の89年には125試合に出場し、ゴールデングラブ賞に輝いている。

 ところが90年、野村が監督に就任すると出場機会が減り、メニエール病の悪化もあって、その年限りでユニホームを脱ぐのだ。

 その野村について、日本ハムの監督時代に尋ねたことがある。

「正直言って最初は受け入れ難かった。当時の野村さんは、なぜ僕を否定するのか分からなかった。ただ、時間がたつに従ってわかるようになってきたんです。

 あの頃、ヤクルトには柳田浩一や飯田哲也といった僕と同じタイプの若手が出始めていた。もし僕が監督でも、将来のチームのことを考えれば、そっちを使っていたと思うんです。

 だから(野村さんとの時間は)僕にとっては宝物なんです。あの経験があるから、今選手たちに対し、きちんと向き合うことができるんだと思います」

 栗山には『稚心を去る』(ワニブックス)という著作がある。幕末の思想家・橋本左内の言葉だが、要はわがままや甘えなど、自分勝手な考えを捨てろ、ということである。

 栗山の采配には「私心」がない。監督として功なり名を遂げながらも、常に腰は低く、目線(志)は高く――。人間、こうありたいものである。

初出=週刊漫画ゴラク2023年4月14日発売号

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