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カネやんの説教。プロとは何か?【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

「長袖を着ろ」

 夏場を迎えるプロ野球。この季節になると、蒸し暑さのため、体調を崩す選手が続出する。

 400勝投手のカネやんこと金田正一は、現役時代、夏場も長袖シャツで通し、冷房のきいた部屋には寄り付きもしなかったという話を耳にしたことがある。

 以下は広島や巨人で活躍した川口和久から聞いたエピソード。

「プロ3年目の暑い日、広島市民球場近くの喫茶店で涼をとっていた。すると“コラッ!”といきなり怒声が飛んできた。誰かと思って振り返ると金田さん。“半袖シャツはいかん。長袖を着ろ。ピッチャーは肩とヒジが資本なんや”と、こうですよ。僕は直立不動のまま“はい!”と答えるだけでした(笑)」

 同じ広島OBの北別府学も川口と似たような経験をしている。

 夏場、半袖を着ていると、<こらっ、投手が半袖を着るもんじゃないぞ! 肩と腕を冷やすな>(自身のブログ)と怒鳴られたというのだ。

 それ以降、夏場も長袖で通すようになったという。

 また金田の夏場対策は食生活にまで及んだ。

「食が細いと体力も落ちる」

 これが持論の金田は、後輩たちに夏場でもステーキを食べるよう指示した。

「年俸を何千万円ももらっているプロ野球選手が、月10万円程度で生活しているサラリーマンと一緒の食事ではダメだ」

 監督時代の金田は、よくそんなことも言っていた。

 金田には気宇壮大な人物というイメージがある。それを決定付けたのが梶原一騎原作の劇画『巨人の星』だ。

 球質が軽く、プロでやっていく自信を失った主人公の星飛雄馬は、ワラにもすがる思いで大先輩の金田に「変化球を教えてください」と懇願する。

「星の若さなら、新しい変化球を編み出せ!」

 それが金田の答えだった。その一言で目覚めた飛雄馬は大リーグボール1号の開発に乗り出すのである。劇画では金田こそが大リーグボールの生みの親なのだ。

 では、実際の金田はどういう人物だったのか。個人的に好きなエピソードがある。

 金田と親しい、あるОBから聞いた話。

「乱闘になった時、監督だったカネやんは真っ先にベンチを飛び出した。しかし左手には、ケガをしないようにしっかりとタオルが巻かれていた。現役時代から染みついたクセなんでしょうね。自分は何でメシを食っているのか。それを体現し続けた人でした」

 米国にもいない400勝投手は骨の髄までプロフェッショナルの色に染められていた。

初出=週刊漫画ゴラク2023年6月16日発売号

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