106回の最初は、天覧試合
野球の試合で、同じチームの2人の選手が、揃ってアーチを架けることを「アベックホームラン」と言う。
参考までに述べれば、アベック(avec)とはフランス語で「~と一緒」という意味。英語では「with」に相当する。
もちろん、これは和製外来語で、野球の本場・米国では通じない。
和製外来語と言っても、組み合わせは「フランス語+英語」で、誰が言い出したのか定かではない。
その昔、男女のカップルのことをアベックと呼んでいた。公園のベンチで肩を寄せ合っていたりすると、「あのアベック、羨ましいな」などと、やっかんだりしたものだ。
このようにアベックという言葉には、どこか甘美なイメージがあり、その影響もあってかアベックホームランにもロマンの香りが漂う。
2人のホームランアーチストの競演は、そのチームのファンには堪えられないものだ。
近年では、海の向こう、エンゼルス大谷翔平&マイク・トラウトの“トラウタニ弾”が出色だ。今季だけで8回あり、チームも7勝1敗と大きく勝ち越している。
ところが7月4日(日本時間)のパドレス戦でトラウトが左手有鉤骨を骨折。“トラウタニ弾”はしばらくお預けとなってしまった。
国内に目を移すと、最多アベックホームランはジャイアンツ王貞治&長嶋茂雄の106回。以下、カープ山本浩二&衣笠祥雄の86回、ホークス野村克也&ケント・ハドリの70回、ライオンズ秋山幸二&清原和博の62回と続く。
1シーズンに限れば、タイガースが21年ぶりのリーグ優勝、2リーグ分立以降、初の日本一を達成した1985年、ランディ・バース&掛布雅之が16回も実現している。
ちなみにMLBにおけるアベックホームランの最多記録はブレーブスのハンク・アーロン&エディ・マシューズの75回。ONの記録がいかに突出しているかが理解できる。
106回の最初が、天覧試合だったというのも、伝説の色に染められたONらしい。
59年6月25日、東京・後楽園球場。この試合、長嶋がタイガース村山実から奪ったサヨナラホームランばかりが取り沙汰されるが、実は6番・王貞治も7回に小山正明からライトスタンドに2ランを見舞っているのだ。この試合、長嶋は5回にもホームランを放っている。
FAやMLBへの移籍が常態化しつつある今、ONの記録が破られることは永遠にあるまい。
初出=週刊漫画ゴラク2023年8月4日発売号