ラグビーW杯フランス大会開幕まで、あと1週間あまり。前回大会で初めてベスト8進出を果たした日本代表は、フランスで「エベレスト登頂」を目指す。
キャプテンに就任した姫野和樹は、こう言い切った。
「4年間かけて準備してきた。たくさんの犠牲を払って、ここまできた。全てはW杯で勝つため。我々には歴史を変える自信がある」
数あるボールゲームのキャプテンの中でも、最も重い責任を負うのがラグビーだ。プレーを選択し、レフリーとの“交渉役”も担う。すなわちチームの大黒柱であると同時に司令塔でもあるのだ。
南アフリカを撃破するなど3勝をあげた2015年イングランド大会、初めて決勝トーナメントにコマを進めた19年日本大会では、ニュージーランド出身のリーチマイケルが大役を担った。
リーチが究極のキャプテンシーを発揮したのはイングランド大会での南アフリカ戦だ。
試合終了間際で、スコアは29対32。インゴール目前で南アフリカが反則を犯し、日本はペナルティを獲得した。
スタンド上段で指揮を執っていたエディー・ジョーンズヘッドコーチの指示は「ショット」。同点で勝ち点2をゲットしようという狙いだ。
ところがリーチは、指揮官の指示を無視して「スクラム」を選択する。これがラグビーの醍醐味だ。
リーチの弁。
「スクラムを選んだのは、相手がひとり少なかったことと、勝ちに行くという気持ちから。今までやってきたことを信じてプレーした」
これが的中した。カーン・ヘスケスの劇的なトライが生まれ、34対32。これが世に言う“ブライトンの奇跡”である。
このリーチの判断について、エディーは、読売国際経済懇話会で講演し、こう語っている。
<最後の30秒は、彼が判断した。それは望ましいことだった。どんな状況であろうと、最も現場に近い人が判断すべきなのだ。マネジメントの立場の人間は、選手より全体的な戦略を思い描いているかもしれない。しかし、最後は最も現場に近い人に決断を委ね、信頼するべきだ>(読売新聞オンライン2020年10月6日配信)
新キャプテンの姫野は前回大会、主にナンバーエイトでプレーし、倒れた相手からボールを奪う“ジャッカル”の名手として名をあげた。
このプレーはチームに勢いをもたらす。「リーチさんの背中を追いかけていた」という姫野。次は自らが、仲間に背中を見せる番である。
初出=週刊漫画ゴラク2023年9月1日発売号