個人に合わせた介入法を考える
チック症群は幼少期に発生しやすく、10代前半に特性が強くなりますが、大人になるにつれて目立たなくなっていきます。しかし、大人になっても持続するケースもあり、人によって経過はさまざまと言えます。幼少期で軽度の暫定的チックの場合、治療をせずに経過を観察することが多いです。ただし、チック症群は極度の緊張や強いストレスで発生・悪化することがあるため、心理教育や環境調整を行うことも大事です。
特に、当事者・保護者・学校などに対し、特性への理解を求めることは不可欠です。意図的な行為ではないため、親や教師から「ふざけるのはやめなさい」などと叱責されれば、強いストレスとなるため逆効果です。行為について直接的な指摘をしないように周知させ、ストレスを減らす環境を整えることが重要です。
なお、ストレスで発生すると説明しましたが、基礎となるのはあくまでも脳機能の特性です。しばしば親の過度な躾が原因と誤解されることもありますが、それは誤りです。支援する家族が誤解で苦しんだり、育児放棄などに発展することがないよう、周囲も含めて正しい心理教育が求められます。
持続性チックやトゥレット症など、特性が長く続く場合は、当事者にかかる負担も大きいです。二次障害としてうつ病(や不安症/不安障害を発症することもあるため、こちらのケアについても考える必要があるでしょう。このほか、重度のトゥレット症に対しては薬物療法が行われることがあります。また、習慣逆転法(ハビット・リバーサル)という行動療法で特性の緩和を狙う方法もありますが、今のところ日本ではあまり普及していないため、一般的な治療法ではありません。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 臨床心理学』監修/湯汲英史
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 臨床心理学』
監修:湯汲英史
ADHDや学習障害、統合失調症やパニック障害などの言葉を耳にする機会はありますが、なんとなく心やメンタルの不調・病気と捉えてしまいがちな臨床心理学の分野。しかし紐解いていくと実はそれぞれの症状には特性や原因があり、子どもが抱えやすいのものから大人が抱えやすいものまで様々です。また、ストレスが原因で自分では気づかないうちに発症してしまうものも。本書ではそんな一見理解し難い「心の問題」の特性や症状を図解でわかりやすく解説します。最も大切なことはしっかりと特性を理解して自分と、そして他人と向き合うことです。「自分は他人がふつうにできることができない」「職場のあの人はどうも変に感じる」「子どもがじっとしていてくれない」こうした日常のもやっとした感情も、臨床心理学を知ることで理解が深まります。また、実際に現場で心の病気を抱えた人と向き合う公認心理士師の仕事についても紹介します。臨床心理学を通して「心の問題」について知ることで、自分や他人の特性がわかり、周囲と上手に付き合っていく方法を知ることができる一冊です。
公開日:2023.05.23