老化は生きるものにおいて避けられない
老化を研究している仲間内で、「老化は病気なのか?」とよく話題になります。答えは「病気ではない」です。生きとし生きるものにとって「老化」は、当たり前に起こり、避けられない。だが「病気」は避けられる。それが理由です(下図)。相当の高齢者でも大きな病気に罹らず、元気に自立した生活を送っている方がたくさんおられます。研究室で年老いたハツカネズミを観察していると、白髪や脱毛は少々あるものの、明らかに病気のない個体を多く見かけます。
だから、病気と無関係に老化することを「正常老化」(生理的老化)とし、対比的に病気になる老化を「異常老化」(病的老化)と区分けして使い分けています。ただし、こうした区分けは生きる時代で移り変わるのではないかと感じていますが・・・・・・。10ページの項でも述べましたが、150年ぐらい昔では、老化が進む前に病気(多くが感染症)で亡くなっていました(下図)。医療技術や衛生状態の進歩で平均寿命がどんどん伸びてくると、高齢に達しても元気な老人が増え、病気のない「老化」が増えました。
ですが、昔と今では老化のベクトルが異なっているように見えても、実際には同線上に連続しているのでないか。つまり、生存時間の長さは違っても、老化は同じ線上を歩きつつ病気の起こる過程(前段階)を示しているではないか、ということです。先に「老化は病気ではない」といいました。ところがその考えも揺らぎはじめています。21世紀になると技術の進歩はさらに加速し、特に分子生物学や遺伝子工学技術により“寿命遺伝子”“老化遺伝子”や“アンチエイジング”(抗老化)の言葉が巷に溢れるようになってきました。研究室レベルでは、老化細胞除去や寿命を伸ばす薬の開発など、老化時計の針が戻りそうな勢いになっています。
老化研究をリードするハーバード大学のデビッド・A・シンクレア博士が、2020年刊行の『LIFESPAN 老いなき世界』(東洋経済新報社)と題した本で、「老化は治せる病気である」との考えを示し、大きな話題となりました。時代が進むと、もしかすると近い未来には、これまでの概念が180度変わって「老化は病気だ。だから治療しよう!」とふつうに会話する日常が訪れるのかもしれません。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』監/長岡功 野村義宏
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』
長岡 功 総監修/ 野村 義宏 監修
高齢化や平均寿命が伸びた社会では、「老化」は誰もが避けられない、しかし誰もが可能な限り抗いたいテーマ。その多くは人体の「老化現象」、またそれに伴う「諸症状」として、完全には克服できないまでも、原因やしくみを知ってうまく対応すれば、症状を「やわらげる」ことや、日常生活での「影響を少なくする」こと、また「目立たなくする」ことが可能である。本書では具体的に、老化にともなう病気・諸症状の原因に言及し、その対処・対策法を解説、紹介する。中高年以降の健康と美容の悩みを楽しく読めて、一気に解決する一冊です。
公開日:2023.03.11