歳を取ると痰や咳が出やすくなる?
痰や咳がのべつ出る病態として、まず考えるべきは肺の疾患です。注意すべきなのは、痰そのものの増加や粘液線毛クリアランスが低下する場合です。痰が絡む(必ずしも痰がでるとは限らない)とか咳の訴えは、“気管支喘息”“肺気腫”“慢性気管支炎”からなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患で多く聞かれる症状なのです(下図)。
特に気管支ぜんそくの患者さんでは、喉に痰があって異物感があると訴える患者さんが多いですね。どうも喉に炎症が起こりやすい印象があります。このような喉の炎症を“慢性上咽頭炎”として治療している医師もいます(下図)。耳鼻咽喉科の先生は、喉に痰があるとの訴えがあると、鼻からの後鼻漏で症状を説明している方もいますが、それ以外にも痰は肺から移動するものです。
この移動を“粘液線毛クリアランス”といいます(下図)。痰の素は気道の粘膜下腺や杯細胞から分泌される粘液で、M3ムスカリンアセチルコリン受容体を介して起こります。ムスカリン受容体の活性化は気道の炎症刺激で促進し、杯細胞過形成、粘液腺肥大、杯細胞の分泌を誘発します。つまり、気道の慢性炎症が痰の増加を誘引するのです。ムスカリンアセチルコリン受容体の遮断は、粘液産生の減少を引き起こしますが、β2-アドレナリン受容体の刺激は、粘液線毛クリアランスを増加させることになります。
もう1つ、加齢で関連する病態には、咳払いする力や痰を飲み込む嚥下機能の低下があります。これは老化現象として起こるものです。嚥下機能の低下は、“誤嚥性肺炎”(46ページ)の発症にも関連してきます。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』監/長岡功 野村義宏
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』
長岡 功 総監修/ 野村 義宏 監修
高齢化や平均寿命が伸びた社会では、「老化」は誰もが避けられない、しかし誰もが可能な限り抗いたいテーマ。その多くは人体の「老化現象」、またそれに伴う「諸症状」として、完全には克服できないまでも、原因やしくみを知ってうまく対応すれば、症状を「やわらげる」ことや、日常生活での「影響を少なくする」こと、また「目立たなくする」ことが可能である。本書では具体的に、老化にともなう病気・諸症状の原因に言及し、その対処・対策法を解説、紹介する。中高年以降の健康と美容の悩みを楽しく読めて、一気に解決する一冊です。
公開日:2023.03.14