白い殺し屋・ホッキョクグマは氷上の最強肉食獣【眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話】

氷上のサバイバルマスター ホッキョクグマ

● カモフラージュの達人:体毛が雪と氷に溶け込み、気配を消して獲物に近づく。
● 鋭い嗅覚で獲物を追跡:1km先のアザラシの呼吸穴も見逃さず、氷下の音やにおいまで敏感に知る。
● 泳ぎが得意:前足で水をかきながら長距離を泳ぐ。
● 世界最大の肉食獣:オスの体重は最大で800kgほど。陸上に暮らす哺乳類では最大クラスである。

ホッキョクグマは、北に暮らす白い巨獣。見た目の美しさとは裏腹に、極寒の氷上で生き抜くための進化を遂げた究極のサバイバルマスターです。生息域にはほぼ天敵がおらず、その圧倒的な存在から「白い殺し屋」とも呼ばれています。

厳しい氷の世界で生きる肉食エリート

ホッキョクグマは、北極圏の海岸や海氷の上に暮らす、世界最大の肉食性哺乳類です。体長は最大で3m近く、オスだと体重は800kgに達することもあります。食性はほぼ完全な肉食で、主な獲物はアザラシです

その狩りは、静寂のなかで行われます。氷に開いた呼吸穴を見つけると、何時間もじっとその場で待ち続け、息継ぎのために浮上してきたアザラシを一撃で仕留めるのです。驚異的な嗅覚の持ち主でもあり、1km以上離れた氷下のアザラシの位置さえ察知することができます。

また、泳ぎも非常に得意で、「海のクマ(marine bear)」という呼び名もあるほどです。前足を器用に使ってリズムよく水をかき、ときには何十kmも泳いで氷の間を移動します。

そのルーツは、ヒグマと共通の祖先から分かれた比較的新しい種。今からおよそ15万〜60万年前に、寒冷地に適応する形で進化したと考えられています。厚い脂肪層と、太陽光を地肌に届ける透明な毛、太陽光を吸収して熱を生み出す黒い皮膚に覆われ、体温を効率よく保てるしくみが備わっているのです。

また、透明な体毛はストローのような構造になっており、その空洞のなかに光が乱反射して白っぽく見えます。これによって雪と氷の世界に溶け込み、獲物を効率的に狩るためのカモフラージュにもなっているわけです。

ホッキョクグマは、北極神話や伝承にたびたび登場し、長い間、語り継がれてきました。しかし現在、この氷の王者はかつてない危機に直面しています。地球温暖化によって北極の氷が減少し、狩りの足場も子育ての場も奪われているのです。このまま温暖化が進めば、2100年ごろには野生のホッキョクグマが地球上から姿を消す可能性もあるといわれています。

見た目は癒やし系 中身はトッププレデター

ホッキョクグマは、真っ白でふわふわの毛に包まれた姿から、癒やし系のイメージで見られることも多くあります。しかし実際は、クマ科で最強クラスの肉食獣です。

野生では人間を恐れたりせず、気になるものを見つけると、確認せずにはいられない強い好奇心を持っています。空腹と好奇心が重なったときには、ちゅうちょなく襲いかかることも。遭遇したらひとたまりもありません。

そして何より、特筆すべきはその行動力でしょう。ほかのクマには見られないほどの粘り強さで獲物を狙い、じっと機会を待ち続けることもあれば、においを頼りにとことん追跡することもあります。警戒するより、まず動く。その姿勢こそ、過酷な極地を生き抜くために磨かれた、生存本能だといえるでしょう。

人間にとっては超有害な「毒の肝臓」を持つ

ホッキョクグマの体は、極限の地で生き抜くための仕様になっています。それは体毛や皮膚といった体の外側部分に限らず、内側もその暮らしに順応していきました。

特に注目したいのは肝臓。なんと、人間の致死量にも達するほどのビタミンAが蓄えられているのです

ホッキョクグマがアザラシの脂肪や内臓を好んで食べた結果、その体内にはビタミンAが大量に蓄積されていきます。肝臓はその貯蔵庫となっており、もし人間がホッキョクグマの肝臓を口にすると、吐き気、頭痛、めまいを引き起こし、そして最悪の場合は命を落とす危険すらあるのです。 過去には極地探検家たちがこれを知らずに食べ、中毒を起こした事例が複数件、報告されています。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話』監修:山﨑晃司

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話』
監修:山﨑晃司


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世界中数多くの動物園で飼育され、アニメや漫画、ファンシーキャラクターのモチーフとしても起用されることの多い人気の動物「クマ」。
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しかし、ペットとして飼うことは難しく、ときに人を襲う恐ろしい側面も持ち合わせるクマ。
それなのになぜ人間にとって馴染み深く身近な存在に感じるのでしょうか。

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愛玩動物、猛獣、食用、ワーキングアニマルなど、さまざまな角度からクマの生態と特徴を解説し、クマの知られざる魅力に迫ります。
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