ロンドンに響いた国民的アンセム「Don’t Look Back in Anger」。そしてオアシスの新たな伝説が始まる
90年代、ロンドンにて
私自身も「Don’t Look Back in Anger」が世界を席巻していた頃、ロンドンの街に降り立っていた。
アビーロードやリバプールなどビートルズの聖地を巡る旅が目的だったが、併せてオアシスのアルバム・ジャケットで有名な街並みも歩いてみようと思っていた。

「(What’s the Story) Morning Glory?」のジャケットはロンドンのバーウィック・ストリート付近で撮影されたという。そこへ行くとオアシスTシャツを着た多くの若者で溢れ、皆が思い思いの角度からあの道を撮影していた。その光景からも当時のオアシス人気を肌で感じることができた。
その夜、パブ文化を堪能しようと繁華街に1人くり出してみた。
ハシゴしてぬるいビールをしこたま飲んでハイドパークを歩いていると、街灯の下で若者が輪になりビールを飲みながらラジカセを鳴らす姿に出くわした。
すると「Don’t Look Back in Anger」のイントロが鳴り出し、彼らが手を止めて音に耳を澄ませたかと思った次の瞬間、グラスを夜空に突き上げて一斉に歌い出したのだ。
なんだなんだと町行く人々は若者たちを振り返る。
ビール片手に笑いながら歌う彼らに吸い寄せられるように、1人また1人と通行人が輪に加わり手招きされた私もビール片手に加わった。
瞬く間に30人ほどの大きな輪に広がった時、あのサビが到来した。待ってましたとばかりに大合唱が巻き起こると周囲で眺めていた人々も皆つられて歌いだした。合唱は大きなうねりとなってパーク全体に広がり国民の賛歌となってロンドンの夜空に響き渡った。
あの感動的な至福の時間は今でも鳥肌が立つほど鮮烈な記憶として残っている。

再び走り出した伝説
そんな名曲の数々を残してきたオアシスだが兄弟の確執により2009年に解散。
弟リアムはかつての荒々しい野性味を残しながらも円熟味を増した歌声で相変わらずふてぶてしくロックンロールを鳴らし続け、兄ノエルはアーティストとして探求を重ねソングライターの腕をさらに磨き上げ洗練されたメロディセンスを見せつけてきた。
そして16年という時を経て2人は完全和解。
世界中のファンが歓喜し2025年から始まる再結成ワールドツアーに備えた。
そして驚くべきことに、90年代を知らない若い世代がいまSNSを通じてオアシスの普遍的なメロディの魅力を拡散し、新たな共鳴と称賛を集めているという。
オアシスはもはや90年代の思い出などではない。解散と再結成を経て伝説は再び走り出したのだ。
あの日、ロンドンの夜空に突き上げたビールと共に響き渡った「Don’t Look Back in Anger」が、新たな命を宿して今度は世界中のスタジアムで大観衆の心を揺さぶり続ける。
そんな光景を思い描きながら私は今夜も「(What’s the Story) Morning Glory?」を大音量で聴き、再び訪れるあの感動の瞬間を待ち望んでいる。
写真・文/ヨシダタカユキ
【関連書籍情報】
『ROLL WITH IT Oasis IN PHOTOGRAPHS』
トム・シーハン(著)、粉川しの(監修)
【紙書籍版 購入者限定特典!】
監修 粉川しの×翻訳 鈴木あかね
オアシスに実際に取材してきた2人が語り倒す!
10,000字特別対談ペーパー封入
未公開作品多数!
伝説的ミュージックフォトグラファーによる
イギリスのロックバンド、オアシスの足跡を追う
決定的フォトコレクション
トム・シーハンはオアシスと共に多くのセッションに参加。
彼らの象徴的、歴史的アルバム「(What’s the Story)Morning Glory」の
レコーディングを撮影したほか
輝かしい軌跡を作品に昇華してきた。
未公開作品を含む200点以上のショットを収録。
トム自身の手によるコメントには
当時の撮影のリアルな様子がしのばれる。
パブなどでの貴重なオフショットも。
オアシスを長年インタビューしてきた
シルヴィア・パターソンによるエッセイからは
ライブやカメラの外でだけ、うかがい知ることのできる
ノエル、リアムの素顔が感じられる。
取材時のやりとりや彼らの語り、
ふとした瞬間に感じられる2人の深い絆に
あたかも新しい彼らを発見したような気分にさせられるだろう。
これこそまさに、オアシスをデビュー前から追いかけ続け
オフショットまでをおさめた至高のマスターピースといえる。