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国内プロスポーツクラブとして初上場。卓球Tリーグ・琉球アスティーダ早川周作代表「夢と感動を与えるスポーツに、新しいお金の循環を」

卓球Tリーグ男子で、初の優勝に輝いた琉球アスティーダ。初年度の最下位から3年目で頂点に駆け上がり、日本卓球界に大きな衝撃を与えた。そして競技外でも、チーム創設3年で大きな成果を残した。3月30日に国内プロスポーツチームの運営会社として初めて株式上場を果たしたのだ。日本スポーツ界の常識を覆す、歴史的な一歩を踏み出した早川周作代表に、その意義や狙いを聞いた。(取材・文=下河原基弘)

日本スポーツ界の歴史的な一歩

3月30日、日本スポーツ界に大きな一歩が刻まれた。琉球アスティーダスポーツクラブが東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに株式上場を果たしたのだ。

親会社である大企業の広告塔としての立ち位置が主流を占めていた昭和、地域色が強いクラブチーム経営が増えた平成、そして令和の時代に入り、ついに海外のプロスポーツクラブのように上場を果たすクラブが出てきた。

「なんで日本の記者は、バランスシートも読めないのにプロスポーツを取材しているのだ?」 数年前にあるプロ野球チームの社長が首をかしげていたが、報道陣をはじめとして日本ではプレーや結果ばかりに目がいっていたのは事実だろう。

とはいえ、そのプロ野球でも親会社の補填で経営が成り立つ球団があるなど、日本においては『スポーツ=儲からない』というイメージは根深く残るが、その潮目は変わりつつある。

「夢と感動を与えるスポーツに、新しいお金の循環を」

スポーツは儲からない」――これに風穴を開けるべく、株式上場を果たした琉球アスティーダスポーツクラブ。早川周作代表取締役は、日本のプロスポーツ界にお金の循環が生まれないのは、3つの要因があると語る。

「1つ目はお金を預かるのにガバナンスが利いていない。2つ目はお預かりしたお金がどうやって使われるか情報公開がされていない。最後に1社も上場しているクラブがなくプライシングされていない。これはお金が集まらなくて当然だと思いました。だからガバナンスや、ディスクロージャー、そして上場するということで、夢と感動を与えるスポーツに新しいお金の循環を作る必要性があったんです」

卓球もほぼプレーしたことがなく、経営者であるもののスポーツビジネスとは無縁。その早川社長がTリーグ前チェアマンの松下浩二氏に、「5歳で競技を始めて15歳で金メダルが取れる。そんな競技が他にあるか?」と熱を込めて語られ引き受けた琉球アスティーダ。複数の大企業から数千万円単位のスポンサードの話があることも聞き、信じて引き受けたがそのような話は何もなかった。

「なぜ夢や希望を人々に与えるスポーツに、こんなにお金が集まらないのか?」

考えた結果、たどりついたのが先述の3つの理由だった。「普通の会社でできていることができていない」と早川氏が指摘するように、スポーツ界だから仕方ないと流されがちなことが、門外漢だからこそ大きな問題点だと認識できた。

そして「適正な市場から、適正なお金を、適正に集められる仕組みをスポーツ業界が持っていなかった。それを実現するために、我々が1番になってやっていこう」と、海外のプロスポーツクラブでは珍しくない、株式上場を進めていくことになった。

3年で日本一、株式上場を達成

世間には3年で日本一になる、そして株式上場をするという目標を公言。実際にそれを成し遂げる訳だが、その秘訣は何か?それは狭義のスポーツクラブ運営にはない、ビジョンに基づいたビジネスモデルを作り上げたことが大きな理由になっている。

「今までのプロスポーツチームは、大企業の広告宣伝、CSRで使われてきました。ただし、将来は地元資本で地域に根差した経営が必要。チケット、ファンクラブ、スポンサー。これらにクラブは支えられてきていましたが、我々はBtoC、BtoBのスポーツマーケティング会社を目指しています。我々が営業をDX化して、スポンサーさんも含めた企業の営業支援をする。スポーツを通じたマーケティングを行うということです」

琉球アスティーダは卓球バルを経営し、沖縄県内に14店舗を持つが、月間3万人の来客があるという。

「この3万人の来店者に、我々がアプローチしていきます。我々にはスポーツチームがやっている飲食店という信頼とノウハウがありますし、普通の飲食店とまったく違う形でお客様にも見られています。これを活かし、BtoCのマーケティングをしていきます」

スポーツを通じたマーケティングは、大きな効果を生み出すと言われている。楽天、DeNA、ミクシィ、メルカリなど大手IT企業が国内外のスポーツチームを傘下に収めることが続いたが、それもスポーツを通じたマーケティング効果の現れだろう。

琉球アスティーダはスポーツの価値をフル活用して、次なるビジネスを生み出している。

「スポーツは社会問題を解決するべき」

BtoBの分野でも、ただ看板を出して終わりというような形は当然取っていない。企業と地域が抱える問題を組み合わせて、スポーツを通じて解決するという手法を繰り返している。

例えば、まだ着られるものの販売終了となるような衣料廃棄(衣料廃棄ロス)に課題を持つスポーツアパレル企業と、沖縄における子供の貧困という課題を結びつけ、子供たちに衣料を配って有効活用してもらうことで糸口を見つけ出した。

児童養護施設の子供たちを中心に配られることで貧困問題の解決の一助となる一方、企業のイメージアップにもつながるし、ブランドに愛着を持つことで将来の顧客につながる可能性もある。

「循環型の社会を作るために、我々が社会問題解決型のビジネスモデルを提供するということは、企業が社会に認められる存在となっていくということ」と早川氏。自分たちの目指す世界観を確立し、それに賛同する企業と一緒に進んでいくことが、長期的なスポンサーシップにもつながると話す。

「スポーツは社会問題を解決するべきだと思っています。私たちは内閣府と協力してシングルマザー2000名を試合に招待する、地元から強い選手を出していくためにコーチを派遣する、SDGsへの取り組みなどをしています。これからは、社会課題解決型の循環型ビジネスモデルしか生き残っていかないのではと思っています」

こう断言する姿勢は、「チームが強ければいい」という発想をはるかに越えている。一方で、ビジネスのみに特化している訳ではない。普段から選手とのコミュニケーションは欠かさず、遠征も含め全試合帯同するなど、早川氏は人一倍熱い情熱を注いでいる。

上場はゴールでなくスタート

既存のスポーツクラブの枠には収らないビジネス戦略を取る琉球アスティーダ。だからこそガバナンス、透明性、そしてプライシングを客観的に担保するためにも、株式上場が必要だったとも言える。

ちなみに現在国内では上場企業が3860社ほどある。日本の企業数は400万社以上であることから、上場企業は1000社に1社ほどしかない。これだけ狭き門であることは、それだけ実績や将来性が市場に評価されているからと言える。

事業を進めていくうえで、上場企業であるという信頼性は大きなプラスになる。日本では初のプロスポーツクラブの上場にもなった。とはいえ相応の苦労があったことも確かだ。

「(上場までの)ファーストステップで5000万円以上の経費をかけています。今回はTOKYO PRO Marketという特殊なマーケットなので5000万円程度で済んでいますが、維持することまで考えると、一般的には年間1億円くらいかかります。コンプライアンス規定関連なども厳しく、100種類くらいの必要書類を出さないといけないんです

それを超えるだけのメリットが得られると見越しての上場だったが、これは過程でしかない。

「最短で2023年を目標に、福岡証券取引所のQボードと東京証券取引所のマザーズに時価総額40億から50億円で上場したいと思っています。それができればスポーツは儲からない、スポーツで時価総額はあがらないという概念を壊していけるのではないか」

琉球アスティーダの、次なるビジネスプラン

資本金100万円からスタートして、今回上場時の株式時価総額は約10億円。そこからさらに短期間で4~5倍の時価総額を目指すが、次なるビジネスプランは練られている。その1つが女子卓球チーム、九州アスティーダの創設だ。

「我々が今沖縄でやっている卓球バルなどのすべてを九州全域に広げていきます。我々は(沖縄の)約140万人のマーケットで年商4億円ですが、九州全体の人口と卓球人口は沖縄の10倍近く。そのマーケットを狙えば、当たり前に売上ベースも40億から50億になります」

さらにアスティーダスポーツパークという構想も持っている。年間10万人以上の利用者を想定し、卓球場、サッカーグラウンド、フットサルコート、パーソナルジム、整骨院、フードパーク、会員企業がビジネスマッチングするためのラウンジなどが併設されている施設の建設を目指している。

沖縄で確立したスポーツを通じたマーケティング、そしてアスティーダスポーツパークの施設運用などのノウハウをもとに、海外進出も視野に入れているという。

「来年にはアジアに進出します。まずは飲食とスポーツパークを持っていってビジネスの拠点を作る。将来的には海外チームのM&Aも行っていきたいと思っています。現地にチームを持って、BtoC、BtoBのマーケティングを行い、どんとスポンサーを増やしていきたいですね」

設立3年で上場。4年目の現在も進化し続ける琉球アスティーダ。改めて目標を聞くと、早川氏は次のように語ってくれた。

「我々は最高&最強のチームを作ると言っています。強くあって、最高に楽しいチームを作っていく。強くなるにはお金が必要ですが、循環型のモデルを九州でも作り、それをアジアでもやっていきたい」

コロナの影響が長引き、特に地方の小さなスポーツクラブは過去最大の危機を迎えているかもしれない。そんな時だからこそ、新たな軸と方向性でスポーツビジネスを進める琉球アスティーダは多くのヒントを提示する。

「経営資源を有効活用するために、どう行動するべきかを何かご提案できれば」と早川氏。苦しい時だからこそ、日本スポーツ界の関係者が知恵を出し合って、ともに進んでいくことが必要なのかもしれない。

聞き手:下河原 基弘
大学卒業後、報知新聞社に入社。『スポーツ報知』にてプロ野球やJリーグからマイナースポーツまで幅広くカバーし、約15年で取材した競技は30以上。雑誌編集にも携わる。現在はマーケティングリサーチ国内最大手・インテージの広報として「攻めの広報」を実践。兼業でフリージャーナリストとして活動し、サッカーやスポーツビジネス、経済系の記事を執筆している。

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