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通算176勝をもたらした「遅球王」星野伸之の魔球『スローカーブ』

Text:西沢 直

プロ野球界『伝説の魔球』列伝

プロもうらやむ伝家の宝刀!この球を投げられたら絶対に打てない、打たれない。あまりの変化にバットが虚しく空を切る。人間離れした変化球。リスペクトをこめて、人はそれを「魔球」と呼ぶ…。

スローカーブが演習した

遅球王の投じる剛速球

●星野伸之/阪急ブレーブス,オリックス・ブレーブス,ブルーウェーブ,阪神タイガース
【魔球その7:スローカーブ】

強打者が揃った1990年代のパ・リーグで11年連続2ケタ勝利を挙た星野伸之の球種は3つしかなかった。120キロ台の直球、110キロ前後のフォークボール、そして80〜90キ口台のスローカーブである。遅い。遅すぎる。『遅球王』と呼ばれるのも無理はない。シアトル・マリナーズの春季キャンプに参加したとき、「ふざけるな、もっと真剣に投げろ」とマリナーズのコーチに怒られた。スローカーブを捕手の中嶋聡が直接右手で捕球し、星野伸之を超える速球で返球した。奥さんに「あんな遅い球、私にも打てる」と言われた。スローカーブに蚊がとまった。そんな微笑ましいエピソードには事欠かない。だが、星野伸之のスローカープは魔球だった。タイミングをはずされ、打者はへなへなと空振りした。そのあとに投じられる120キロ台の直球は、まるで160キロ超の剛速球のように感じられた。緩急の妙とは、このことだ。稀代の遅球を稀代の剛速球に見せる。このスローカーブが星野伸之に通算176勝をもたらした。これもまた魔球と呼ぶにふさわしい球だ

 

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