投手にとっても重要な「グローブの形」
投手にとって、グローブへのこだわりは非常に大切です。なかにはデザインやカラーがカッコいい、憧れの選手と同じモデルがいいなど見た目で選んでいる人もいるかもしれませんが、もっと重要なことがあります。グローブの形状です。1章で「グローブの位置によって姿勢に影響が出る」という内容を書きましたが、グローブの形は投球動作にも大きな影響を及ぼします。
一般的にグローブは「縦型」と「横型」に分類されますが、私はもっと細かく分ける必要があると考えています。それくらい投球動作に与える影響が異なるからです。左ページの写真を見てください。左から「縦縦」「縦縦横」「縦横」「横」という分類になります。写真を見比べると、グローブの開き方の違いがわかると思います。左から3つはウイルソン社のもので、指を入れた時に丸みが出ることが特徴。操作性に関わってくるので、非常に大事なポイントです(詳しくは後述します)。ウイルソンは細部までこだわって作っているのでオススメしています。右端は他社製です。
基本的に、投げ方によって推奨する型が変わります。縦縦はオーバースローか、もっと上から投げる超オーバースロー。縦縦横はスリークオーターより少し上、あるいはオーバースロー。縦横はスリークオーターです。野手は基本的に上から投げないので、縦横が使いやすいと思います。
投球動作でより大きな力を生むには、利き腕だけでなく引き手をうまく使うことが重要です。自分に合ったグローブを選ぶのが大事なのは、形状によって引き手の回外の角度が変わるからです。トップを作る際、グローブをはめた手を回外させていきながら、できるだけ体に近いところまで来てくれた方がお腹の収まり具合はよくなります。引き手をそのように使えると、お腹の力をより発揮しやすくなる。つまり適切なグローブを選択することで、投球動作でより大きな力を生み出せるわけです。
縦縦は形状として下に引きやすいので、利き手を上げやすい。だからオーバースローにとって使いやすい形です。オリックスの山岡投手がこのタイプで、彼の投げ方を見ると腕の高さとグローブの形状が「対」になっています。
逆に本書のモデルを務めている赤沼投手はスリークオーターとサイドの中間くらいから投げるので、縦縦を使うと本来引き手が発揮できるであろう力が弱まってしまいます。横型は力を弱めるほどではないですが、縦横の方が自分のしたい動きをできる。そうした感覚について、赤沼投手は「グローブが自分を導いてくれる」と話していました。自分の特徴を把握した上で、動きが邪魔されないグローブを選んでください。
ちなみに、基本的に指は外に出してほしくありません。指が伸ばされて緊張し、動きが制限されてしまうからです。丸みがあった方が動かしやすいので、それがウイルソン製をオススメする理由です。
同社のグローブには「コユニ」で使いやすいという特徴もあります。コユニとは小指を指す箇所に小指と薬指の2本を入れることです。中指、人差し指はそれぞれ1本ずつ横にずらし、人差し指用の穴は開けておきます。
実践してもらうのが最もわかりやすいので、腕を伸ばして薬指を中心に回転させてみてください。すごく回しやすくないですか? 次に人差し指や中指を中心に、伸ばした腕を回転させてください。前腕の筋肉を結構使いますよね? 人間の身体の構造として、薬指を中心にターンすると腕はスムーズに動きます。でも5本の指が広がっていたら、「慣性モーメント」が大きいので動きが遅くなる。慣性モーメントは「物体の回転しにくさを表す数値」のことで、例えばフィギュアスケートのジャンプでは両腕を広げるより、胸の前で閉じた方が回転しやすくなります。後者の方が、慣性モーメントが小さくなるからです。
横型は〝当て捕り〟(グローブの中指と薬指の根元あたりでボールを当てて、添えた手で素早く捕球すること)をしやすいという特徴がありますが、両手で捕りにいくことが前提です。一方、ウィルソンのグローブはシングルキャッチに特化し、指の部分が強く作られている。片手で捕りにいければ、守備範囲を広くできます。以上のように、グローブはプレーに大きな影響を及ぼします。だからこそ自分により適したものを選び、合理的な使い方をしてください。
出典:『革新的投球パフォーマンス』著/高島誠
『革新的投球パフォーマンス』
著者:高島誠
「高校生なら誰でも140km/hを投げられるようになる」という命題に明確な回答をする超実践本!近年成長著しい広島県私立武田高校で強化メニューを担当するトレーナーの高島誠の下には、山岡泰輔投手や高橋礼投手というプロの投手たちもシーズンオフにトレーニングにやって来ます。高島はどんな指導をして成長に導いているのか。その考え方や練習&トレーニング方法を写真とQRコードで詳しく解説!
公開日:2021.10.14