あくまで役割はアシスタント
サッカー・カタールW杯の前半戦の主役はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)だった。
VARは前回の2018年ロシア大会から導入されたものだが、今大会から新たに半自動のオフサイド判定システムが加わった。
VARは全てのプレーに適用されるわけではない。①得点か否か、②PKか否か、③退場か否か、④警告退場の人間違い――。
字義通り、あくまでも役割はアシスタントのはずだが、レフェリーが切り取られた映像に引きずられているような印象を受ける。
もっとも、私はVARの導入に反対しているわけではない。ロシア大会で日本のコーチを務めた森保一監督が「普段、映像で見る試合の1・5倍か2倍くらいのスピードで展開されているように感じた」と語ったことからも分かるように、相手に時間もスペースも与えないハイモダンなサッカーを、肉眼で全て裁くのには無理がある。誤審を減らすために、映像の力を借りるのは仕方がない。
問題は「決定を下すのはレフェリー」と言っておきながら、機械に権限を与え過ぎているように映ることだ。
たとえばサウジアラビア対ポーランド戦の前半44分、VAR判定で得たサウジアラビアのPK。ポーランドMFクリスティアン・ビエリクがサウジFWサレハ・シェヘリに体を寄せると、大げさに倒れ込んだ。どう見てもノーマル・フットボール・コンタクトである。見方によってはシミュレーション(相手選手のファウルを装って倒れ込み、レフェリーを欺こうとする行為)かと訝った。
ところがブラジル人レフェリーはオン・フィールド・レビュー(OFR)の結果、ファウルと判定し、PKを認めた。ポーランドのGKが止めて事無きを得たものの、オリジナル・ディシジョン(レフェリーの最初の判定はノーファウル)のままでよかったのではないか。
ポルトガル対ウルグアイ戦でも一悶着あった。ポルトガルが1対0の後半44分、MFブルーノ・フェルナンデスがドリブルで持ち込んだ際、ウルグアイDFのホセ・ヒメネスがバランスを失い、後ろ向きに左手をついた。そこにボールが当たった。
VARからレフェリーに無線で確認の連絡が入り、OFRの結果、PKに。フェルナンデスが落ち着いて決め、ウルグアイは万事休した。
競技規則には<競技者の手や腕にボールが触れることのすべてが、反則にはならない>とある。レフェリーが両手で四角の形を作るたびに、心臓がキュッと縮むのは私だけか。
※上部の写真はイメージです。
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