第6回 海を渡って受け継がれる真の”猪木イズム”~柴田勝頼がたどり着いた“AEW“という名の新天地

Text:岩下英幸


”ザ・レスラー”のニックネームと共に、伝統的な黒タイツと赤タオルの姿で大歓声を受ける柴田勝頼(右)– 2024年4月21日(現地時間)ミズーリ州セントルイス チャイフェッツ・アリーナ –

 

コラムの第一回で紹介したオカダ・カズチカに先んじることおよそ1年あまり、新日本プロレス(以下、新日本)からAEWへと闘いの舞台を移したレスラーがいるのをご存知だろうか。その男の名は柴田勝頼。かつて棚橋弘至(新日本)、中邑真輔(現WWE)と共に「平成の新・闘魂三銃士」と名付けられるも、本人は一括りにされることを嫌ってあからさまな拒否反応を示すなど、反骨精神に富む人物でもある。

柴田のプロレス人生は、本人にとってもファンにとってもまさに天国と地獄を常に行き来するかのような刺激的かつ熾烈なものだ。新日本でデビューを飾るも、そのファイトスタイルはエルボーやチョップなど無骨な打撃技や絞め技のみに終始し、いわゆるプロレスらしい派手な技ではなく、気迫でぶつかることを心情とした。

後に柴田の代名詞となる本格的なキックを習得してからは、現役K-1選手との打撃技ルールでの試合を行い、総合格闘家の立ち位置を確立したかと思えば、フリーランスとなって一度退団した新日本に再び所属してプロレス回帰を宣言するといった、まさに我が道をひたすらに突き進みつつ、シングル・タッグを問わず遺恨絡みも含めた数々の名勝負を生み出す、プロレス界でも一目置かれる存在となる。柴田ほど多くのビッグネームと闘い、その試合のどれもがファンによる極めて高い評価を得たレスラーもそう居ないのではないか。

そんな柴田に突然のアクシデントが降りかかる。2017年、オカダ・カズチカとの壮絶な打撃戦となったタイトルマッチでの敗戦直後の控え室で昏倒、急性硬膜下血腫と診断され、長期欠場へと追い込まれたのだ。レスラーとしての復帰すら目処の立たない日々を送る中、新日本がアメリカ・ロサンゼルスに新設したLA道場のコーチに就任。後にAEWで活躍することとなるレスラーを含め、多くの後進を育てることに尽力することになる。この時点でファンの多くは、柴田勝頼は半引退の状態であることを寂しくも感じざるをえなかった。

だが、その間も柴田のプロレスラーとしての自負と信念の炎は、コーチという地位に甘んじることなく、決して消えてはいなかった。欠場から実に3年を数えた2021年、新日本の会場に突如登場して近いうちの復帰を観客の前で宣言し、翌年には本格的なレスラー活動を再開するという奇跡の復活を遂げたのだ。さらに新日本所属のままAEWとも選手契約を結び、新天地であるアメリカマット界への本格的な進出を果たすことになる。その過酷な復帰までの道のりたるや、本人にしか知りえない苦悩と努力の日々であったことは、想像に難くない。

果たしてAEWの選手としての柴田は、無骨なファイトスタイルはそのままに、新日本の伝統的な黒パンツ姿に真紅のタオルを首にかけて入場する。試合はコブラツイストやスリーパーホールドといったクラシカルな絞め技なども交えつつ、最後はいかにも重厚なPK(ペナルティキック)と呼ばれるフィニッシュホールドで相手を蹴り倒して勝利を飾ってみせる。

そんな柴田のニックネームは何の飾り気もないたった一語、”THE WRESTLER(ザ・レスラー)”。レガースを身につけ、キックを得意とするファイトスタイルであることを除けば、リング上での佇まいは、かの”燃える闘魂・アントニオ猪木”その人を彷彿とさせる。会場に集まったアメリカの観客が、そんな柴田に対して惜しみなく盛大な拍手と声援を送っているのを見るにつけ、感慨深い思いに耽る往年のファンも多いのではないだろうか。これまでPPV大会を含めた多くのビッグマッチにも出場し、AEWファンの認知度と合わせて、その人気もさらに高まっており、団体内での地位を確実に築いている。

ただ、そんな柴田にも試合模様とは別の”明らかな変化”を垣間見ることもできるのだから面白い。アメリカン・プロレスでは試合以外のバックステージやインタビュースペースなどにおいて行われる、対戦相手との因縁などを盛り上げるドラマ形式のシチュエーションである”プロモ”の存在が欠かせないのだが、全編が英語のみで進行するそんな場面においても、柴田は巧みなアイディアで軽々と乗りこなしてみせているのだ。

当の柴田は英語を解さない日本人としての立ち位置なのだが、柴田の手には常にスマートフォンが握られており、相手の喋りに自動翻訳アプリをかざして応じ、すかさず英語音声を再生して受け答えするのだ。一種コミカルに思えるこのシチュエーションの最中も、柴田本人は全く無表情のままで、それが逆に観客からの笑いと声援を受けるまでに昇華されている。「英語が分からず、話すこともできない日本人」というキャラクターの弱点を、逆転の発想で強みにしている好例であり、それを”あの”柴田がやってみせることで、さらに何倍にも面白さが増幅させられているのだ。

当コラムでインタビューをさせていただいたマイケル中澤氏も、「あのアイディアは柴田さんご自身によるものなんですよ。まぁ、柴田さん自身もアメリカは長いですし、決して英語を喋れないというわけではないと思うんですが(笑)。プロモにおける英語はカタコトの方がいい場合もあるし、日本語だけで通す方がよかったりする場合もあるし、あるいは柴田さんのようにそれを逆手にとって面白くしてしまうのもアリだと思いますよね。その点でも本当に素晴らしいアイディアだと思います」という裏話とともに、その完成度について太鼓判を押す。

ちなみに余談ながら、この翻訳機を使った英語圏のレスラーとのやり取りのモチーフは、往年の人気プロレス漫画のオマージュとしか思えないのだが、そう勘繰っているのは果たして筆者だけだろうか。

こうした変化を自らの中に受け入れつつ、リング上での本質的な闘う姿勢はそのままに、アメリカマット界での存在感を際立たせている柴田勝頼。こうなってくればAEWという団体における、いずれかの王座の戴冠をファンならずとも期待してしまうところだろう。かつてAEWが買収により傘下に置いたROHの王座を長く保持していた経験のある柴田だが、AEW純正となるといずれの王座にも今一歩手が届いていないという実情がある。この王座絡みの展開が、今年から同じくAEW所属となったオカダ・カズチカとの間で争われ、電撃的に開催が発表された2025年1月5日(イッテンゴ)の東京ドーム大会「WRERSTLE DYNASTY」でもしもタイトルマッチが実現したとしたら、、、。そんな妄想じみた運命のイタズラを思わせる対戦も、今や決して夢物語などではない”必ずや訪れるべき未来”であることを、AEWの柴田勝頼という男には感じさせられてしまうのだ。

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