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逸話の多い垂仁天皇【眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話】

Text:谷口雅博

逸話の多い垂仁天皇

『古事記』の垂仁(すいにん)天皇条ではたくさんの逸話が語られています。これらの話は古い体制から新しい体制への移行を示すものと考えらています。それでは、逸話を深読みしてみましょう。

①天皇の暗殺未遂

垂仁天皇の后となったサホビメは実兄のサホビコにいわれて、天皇の暗殺を試みますが、結局失敗に終わります。この話には父系制の天皇家と母系制との対立が語られているといわれています。サホビコとサホビメの家柄は日本に古くからある母系制の家柄でした。母系制の場合、外から夫を迎え入れて家系を継いでいかなければなりませんが、母は開花(かいか)天皇の皇子に嫁ぎ、サホビメは垂仁天皇に嫁いでいます。ほかに娘がいない場合、家は途絶えてしまうのです。そのため、サホビコはサホビメに天皇の暗殺を指示し、なんとか回避しようとしたのではないでしょうか。

②妻との別れ

天皇に反逆の事実を知られたサホビメは兄のサホビコが立てこ もっている稲城(いなき)へ入り、そこで天皇の子を出産します。なんとか子だけ取り戻すことができた天皇は、サホビメに「子どもの名前はどうする?」、「乳母は誰がいい?」と問いかけます。時間稼ぎのように見えますが、このような役割は母方にあったためだといわれています。さらに天皇は「次の后は誰がいい?」とまで聞いているのには驚かされます。サホビメは二人の娘を推薦し、「忠誠心の厚い人々なので」と言葉を添えました。自虐的な発言ですが、一方で、天皇の后となる女性とは、どのような人品であるべきかを宣誓しているかのようでもあります。

逸話の多い垂仁天皇

③口のきけない子ども

サホビメが稲城の中で産んだ皇子ホムチワケは大きく成長しても話すことができませんでした。これはオオクニヌシ(出雲大神)の祟りであることがわかります。なぜホムチワケに祟ったのでしょう。諸説ありますが、これにはオオクニヌシの国譲りの神話が関係していると考えられます。国譲りの際にオオクニヌシは出雲に立派な御殿を建てることを条件にしました。しかしその後、立派な御殿は放置されていたのではないでしょうか。そのため、天皇の子であるホムチワケに祟ることで、ちゃんと祀るように再度伝えたのではないでしょうか。

④次の后をめぐる悲劇

天皇は新たな后として、サホビメが勧めた姉妹を迎えますが、なぜか四姉妹がやってきます。そこで天皇は美しくない下の妹二人を実家に戻してしまいます。このような話は、ニニギの話に登場するコノハナサクヤビメとイワナガヒメの神話にも出てきます。神話では天皇に寿命を与えるという呪いを受けました。しかし、垂仁天皇の話では、なんの呪いもありません。これは神々を中心とする時代から、人の世を中心とする時代に移行したことを示していると考えられます。

⑤不老不死の果実

垂仁天皇は、タジマモリに常世国(とこよのくに)にあるという不老不死の果実を持ち帰るよう命じます。しかし、 タジマモリが不老不死の果実を持ち帰ったときには、天皇はすでに亡くなっていました。常世国という神話的な世界は残っていますが、結果的に効果を得られませんでした。その点から、神話的世界の終焉を感じさせます。

逸話の多い垂仁天皇

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』監修:谷口雅博

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』
監修:谷口雅博 日本文芸社刊


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