心身の穢れを除いて神前に進むため
神社をお参りする際には手水舎やで手と口を清めます(作法は左ページ参照)。なぜ、お清めをするかというと、日本の神様は穢を嫌うからです。神社は神様のお屋敷・宮殿のようなものですから、その敷地に入れていただくにあたって、衣装を改めるだけではなく、心身の汚れも落とすのです。かつては海や川に浸かって禊みそぎをしてからお参りするのが正式の作法でした。『古事記』『日本書紀』の神話によれば、禊を初めて行なったのはイザナキ(伊邪那岐の命)であたといいます(27項参照)。火の神*を産んだために焼け死んだ妻のイザナミ(伊邪那美の命)のことが忘れられないイザナキは、死者の世界である黄泉の国まで迎えに行きました。
ところが、イザナミはすでに死者の世界の住人となっており、その真の姿を見てしまったイザナキは命からがら地上に逃げました。そして、黄泉の国で穢れてしまった身を清めるために、海で禊をしたのです。このイザナキの故事に倣ならって神事に携わったり、神社を参拝する際には、禊をするようになったのです。しかし、参拝のたびに裸になって禊をするのは容易ではありません。そこで、手と口を清めることで禊に代える手水が普及しました。いや、私は穢れてなんかないよ、と言われるかもしれませんが、人は日々の暮らしの中でさままな罪つみ穢けがれにさらされています。それら1つ1つはささやかなものですが、穢れは穢れです。神前に進む際には清めるべきなのです。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 神道』
著:渋谷申博
「神道には教義がないって、本当なの?」「八百万の神々の中で一番偉いのは、誰?」「鳥はいないのに、なぜ鳥居というの?」 神道の起源から日本の神様、開運神社のご利益まで楽しくわかる! 古代から伝えられてきた日本の心──神道。その奥深い世界を57項目の素朴な疑問からズバリ解説しす。
公開日:2021.06.12