スポーツビジネスの現場で核となり、さらに将来のキーパーソンともなる30代の方々に、これまでのキャリアと現職について伺う連載企画。第4回は株式会社ジュビロ 事業戦略本部 企画部の江端大介(えばた・だいすけ)さんに、化粧品業界からJクラブへと転身したキャリアを伺います。(聞き手はHALF TIME編集部の横井良昭)
マーケティング畑からJクラブへ
――2021年、ジュビロ磐田にとっては是が非でもJ1昇格を目指す大事な年になりますね。まずは早速、江端さんの現在の職務、取り組みを教えてください。
株式会社ジュビロには2020年の1月に入社しました。現在は事業戦略本部の企画部に所属しています。私のミッションは、「デジタルを活用してファンエンゲージメントを高める」こと。YouTubeでコンテンツを企画・配信したり、公式アプリを活用した企画を行ったり、ツールを用いてスタジアム来場者の分析を行ったりしています。例えば、来場者データを活用して特定のセグメントを作成し、それぞれに合わせたコンテンツやイベントの案内、試合後のサンキューメールなどを送っています。
現在クラブには、約30名のフロントスタッフが所属しています。私が所属している事業戦略本部の他、営業、運営、グッズ制作などを担当する用品、そして総務系の部門があります。事業戦略本部には企画部と広報部があり、企画部には私を含めて3人。企画部だけで完結する業務はあまりなく、広報や用品などの他部門、そして選手を含めたチームと連携しながら、横断的に業務を行っていますね。
――どのような経緯でクラブに入ることとなったのでしょうか?これまでのキャリアを教えてください。
新卒で資生堂に入社し、約6年勤めました。学生時代にゼミでマーケティングを専攻して以来、その分野を仕事にしたいと思っていたんです。
就職活動をしていた中で、運よく資生堂からマーケティング領域で採用していただき、そのまま入社を決めました。最初はドラッグストアの営業担当として2年、その後マーケティング部門へ異動し、メイクアップ・スキンケアブランドの担当として商品企画やプロモーション企画を経験しました。
その後6年目を迎えた2019年に、Jリーグを起源としたビジネススクールであるスポーツヒューマンキャピタル(SHC)へ通い始めたんです。スポーツ業界に関する知識や、クラブで働かれている方のお話を聞いて、スポーツビジネス領域で自分のマーケティングの経験を活かしたいと思い、転職を決めました。
学生時代の頃はスポーツ業界で働くなんて、考えてもいませんでした。でも、マーケティングの考え方が身についていれば、色々な可能性が自然と広がると思っていましたし、社外でも通用する人材になりたいということは常に意識していました。
スポーツ業界への転職の「決め手」
――スポーツ業界へ転職することを決めた理由は何ですか。
一番は、自分の好きなもので勝負がしたいと思ったからです。マーケティングを仕事にする中で、マーケティング自体が好きであることはもちろん、その「対象」をどれだけ好きになれるか、こだわる事ができるかが大切だと考えるようになりました。そこで「自分の好きなものってなんだろう」と改めて考えた時に、「スポーツ、サッカーだ」と至ったのが転職を決意した大きな理由です。
ただ、私が転職を考えた時には、スポーツクラブで働くということに関して、あまり情報がありませんでした。そこで、いきなり飛び込むよりは「生の情報」を得られる場所をまず探そうと思い、SHCに参加したんです。
――SHCの後に現職ということですね。数多くのクラブがあったかと思いますが、ジュビロ磐田に決めた理由は?
浜松市出身で、地元のクラブであったことが大きな決め手です。自分自身もジュビロの勝敗に一喜一憂するサポーターでしたし、常に心の支えになっていたクラブへの想いがありました。地元への貢献にもなりますし、クラブをより良い方向へ導くために、自分が今まで積み重ねてきたことを活かしたいと思ったんです。
異業界で培われた「スキル」と「知見」
――これまでのスキルや経験で、現職に活きているものはありますか。
一番はマーケティングの考え方だと思います。現状分析からセグメンテーション、ターゲティングを行いポジショニングを策定するなど、基本となるフォーマットはどこにいても役に立つと感じています。
前職でよく言われていたのは、「生活者の認識をどう変えるのか」を考えることでした。ファン・サポーターが今何を考えているのか、そこに対してどのような施策を打ち、どのようにその認識を変え、喜んでもらうのかを常に考えるようにしています。
――スポーツ業界の「外」からやってきて、ギャップを感じたり、課題感があると思った点はありませんでしたか?
(クラブの)リソースが限られていることは課題に感じています。これは特に、コロナ禍で有観客での試合が困難になった際に実感しました。オンラインで新たな取り組みを行おうと考えても、いざ動き出すとその分野に長けている人が少ない。とにかくやれる人がなんとかやっていく、という状況がまだありますね。
そうなると、必然的に1人当たりの仕事量が多くなってくるので、優先順位をつけること、そして常に目的を意識して行動することが大事です。それから、他部門とのコミュニケーションも欠かせません。
「やりがい」をモチベーションに
――ジュビロ磐田に転職して約1年が経とうとしています。振り返っていただくと、この業界の魅力はどのような点にあると思いますか?
やはり、やりがいのある仕事ができることでしょうか。地元のプロクラブとして地域での認知度は高いですし、クラブを通じて多くの人に影響を与えられると感じています。自分が関わった企画に対して、SNSで好意的な声を見ると本当に嬉しいですね。
またプロアスリートとも一緒に仕事をする中で、プロとしての考え方や姿勢などに刺激を受けることもたくさんあります。
――今後、この仕事を通して成し遂げたいことはありますか。
2つあります。1つは、ジュビロ磐田を通じて「コミュニティ」を増やすこと。ファン・サポーターの皆さん同士、またスポンサー様同士でも、ジュビロをハブにしてコミュニティができていくような働きかけができたら面白いと思います。それを通じて、「この地域にジュビロがあって良かった」と思っていただける方が増えてほしい。
もう1つは、「スポーツクラブで働くことの価値」を高めることです。外の業界からスポーツ業界へ入った自分自身がクラブで活躍することで、「今まで培った経験をスポーツ業界で活かせる」と示していきたい。そうしてスポーツクラブで働くという選択肢の価値を上げて、外の人もどんどん飛び込んできてくれるような業界にしていきたいですね。
――今回の江端さんのお話も、貴重な例になったに違いません。では、今後スポーツ業界に転職を考えている方々へメッセージがあれば、ぜひお願いします。
一般的には「好きなことを仕事にするのはやめた方がいい」と言われたりしますが、好きだからこそ100%以上の力を出せることがあると思います。その「好きなこと」がスポーツである人も多いのではないでしょうか。
今はスポーツ業界の情報が外へ発信され、私のようにスポーツ業界に転職する人も増えてきています。現在は別の業界で活躍していて、その経験を好きなスポーツに活かしたいと考えている方には、是非挑戦していただきたいです。
初出=「HALF TIMEマガジン」
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公開日:2021.06.29