監督としての長嶋茂雄と原辰徳、2人は何が違ったのか? ゴジキ氏の新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が解き明かす、名将たちの勝負哲学
埋まらなかった松井の穴と「28」の屈辱
しかし、同年のオフに松井はメジャーに挑戦し、原巨人はチームの大黒柱を失う。そこで、ヤクルトから松井のライバルだった強打者のロベルト・ペタジーニを獲得した。03年は新リーダーの高橋由伸が打率 .323で首位打者ランク4位、ペタジーニが34本塁打、81打点、清原も26本塁打と復活したが、前年と比較すると不調者や怪我人が続出したことに加え、精神的支柱だった松井の穴を埋められず3位に終わり、原第一政権はわずか2年で幕を閉じた。「読売新聞社内の人事異動」と渡邊恒雄オーナーが語った退任劇だが、その真相はシーズン終盤に当時の球団代表から選手起用に干渉された原が、自ら辞表をたたきつけたのだった。
原の辞任後、巨人はさらなる下降線をたどる。04〜05年は堀内恒夫が指揮を執るが、05年は5位に終わり、チームの雰囲気は崩壊。暗黒時代と呼んでいいだろう。このタイミングで原が監督に戻り、第二次政権が始まる。
06年シーズンから復帰した原は、その後の10シーズンのうちリーグ優勝6度、日本一2度という結果を残した。ここで重要なのは、勝ち方が単一ではなかったことだ。前半(06〜09年)は「補強×育成の最大化と新たな役割分担」、後半(12〜14年)は「投手王国と守りの最適化」と評することができる。そして10年目の節目となった15年、世代交代の波とさまざまな外部要因が一気に押し寄せ、第二次政権は幕を閉じた。
この10年間は、「巨人=大補強球団」という固定観念と、「育成と再現性ある運用があってこそ勝ち続けられる」という現実がせめぎ合い、折り合いを見出していく過程そのものであった。
06年は、前年オフにロッテを日本一に導いた李承燁(イスンヨプ)を獲得。さらに、ジェレミー・パウエル、豊田清、野口茂樹、小坂誠を獲得した。大補強に注目されがちだが、ドラフトで越智大祐と山口鉄也を指名しているのも見逃せない。
02年に長嶋政権から引き継いだ時とは、巨人の立ち位置も違った。当時のセ・リーグは中日、阪神がリードしており、交互に優勝していた。また、チームを一新しなければならない状況で、いわゆる負け癖を払拭(ふっしょく)するところから始まった。再建が期待される中でスタートダッシュに成功し、5月11日の段階で貯金を14もつくった。しかし、交流戦の頃に小久保裕紀や高橋由伸、阿部などが離脱。これを境に低迷し、借金14へ。振り幅「28」の大失速だった。この屈辱的な状況に、「俺は『28』という数字を絶対に忘れない」とコメントするほどだった。また、6月には球団史上2度目の10連敗を喫してチームは沈んでいった。そんな時に獲得したのが、その後タレント軍団の中でユーティリティプレーヤーとして活躍することになる木村拓也だった。
この時期は、「これだけ弱いチームで野球をしたのは生まれて初めてだ」という葛藤もあったそうだ。結局このシーズンは不甲斐ないまま終わるが、「責任はベンチが取ればいい。こっちに批判の矛先が向くのは一向に構わない。『選手は信頼しても信用するな』。監督になる時に星野(仙一)さんに言われた言葉を思い出した」と話すように、翌年からは選手の気持ちを必要以上に推し量ることはやめた。これまでの若さあふれる監督像から、マネジメントを含めて「大人の采配」になる転換点のシーズンだったともいえるだろう。
【出典】『マネジメント術で読むプロ野球監督論』著:ゴジキ
世界一を争うWBCが開催される2026年。改めて「指揮官の役割」が問われる今だからこそ、本書が示す「監督論」は、野球ファンのみならず、あらゆる組織で戦う人々にとって強力な指針となるでしょう。
発売前から大きな反響を呼んでいる本作。その全貌は、ぜひお手にとってお確かめください。
【書誌情報】
『マネジメント術で読むプロ野球監督論』
著:ゴジキ
原辰徳、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助。
彼らは頑固と柔軟、安定と挑戦、温情と冷徹といった矛盾する問いとどう向き合ってきたか。マネジメントのスタイルは時代を経てどのように変わったのか。強いチームを作る普遍的な方法はあるのか。
『データで読む 甲子園の怪物たち』がヒットした野球著作家が、各監督の特徴を徹底分析。
◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュースの公式オーサーにも選出されている。
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