名将・伊東勤に学ぶ組織の停滞を打破する適材適所のマネジメント! ゴジキ氏の新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が解き明かす、名将たちの勝負哲学

敗戦を機に機動力野球へ転換

 05年の伊東西武は、前年王者から一転、勝率5割を下回りながらもパ・リーグ3位に踏みとどまった。打線はアレックス・カブレラと和田の中軸に、石井義らのミドルレンジが絡む「強打で押す」色合いが濃い。チーム本塁打は162本でリーグ上位、対照的に盗塁は70個と控えめだった。中村剛也が22本塁打を記録し、将来のチームを担う主砲の台頭が見られた。投手陣は松坂と西口がダブルエースとして機能したが、チーム防御率は5位と安定感を欠き、接戦の終盤で守り切れない試合も目立った。結果、プレーオフ1stステージではロッテに連敗で敗退。わずか2得点に封じられ、重量打線偏重の綻びと、救援運用の難しさを突きつけられる一年となった。

 この反省が、翌年の舵切りを決定づけた。伊東は攻撃のプランを一発頼みの大味な野球から出塁・機動力・多様な点の取り方へと段階的に転換した。1、2番の片岡治大、赤田、福地寿樹ら機動力に秀でた選手を起点に走者を進め、中軸で還す再現性の高い形を磨いた。数字もそれを裏づける。チーム盗塁は111と前年の70から大幅に伸びる一方、本塁打は131へと適度にスリム化。打線全体の打率は.275に上がり、総得点も増加した。加えて、守りのベースとなる投手陣の立て直しが効き、チーム防御率も改善する。シーズンは80勝54敗2分の2位、首位・日本ハムにわずか1ゲーム差という、内容のある〝勝ち筋〞を取り戻した。

 また、高卒ルーキーの炭谷銀仁朗を開幕戦で先発マスクに抜擢し、守りの将来像を早期からチームに共有させた決断は、その後の捕手育成の文脈でも象徴的である。現場の〝いま勝つ〞と〝将来に投資する〞の間に橋を架け、短期と中長期を同時に回したことは評価に値するだろう。

 短期決戦への備えも明確になった。先発は松坂・涌井秀章・西口の三本柱で勝ちにいき、救援は役割の固定で〝逆算〞する。豊田の流出で空いたクローザーには小野寺を抜擢。29セーブ、防御率2.82という結果は、起用の明快さと信頼構築の賜物だった。左のセットアップは三井浩二、状況対応のワンポイントには星野。打者の左右と相性に応じたレバーを複数用意する。伊東は捕手出身らしい〝バッテリー目線〞で、相手の打順の谷と山、終盤の代打カードまで視野に入れ、継投の入口と締め方を細かくデザインした。

 この年のプレーオフ1stステージ、初戦は松坂対斉藤和巳というエースの投げ合いを1対0で制し、続く第2戦は先発をルーキーの松永浩典に託す〝奇襲〞で層の厚みを見せたが、中盤の4失点で流れを手放す。第3戦は西口が踏ん張るも、終盤の継投でズレータに痛恨の3ランを被弾して逆転負け。1勝2敗で敗退となった。初戦の完璧なゲームマネジメントに比べ、2・3戦は「先手の工夫」と「終盤の微差の詰め」の両面であと一歩。レギュラーシーズンで構築した勝ちパターンを、ソフトバンクホークスの厚い中継ぎ運用と長打一発が上回った。

 ただ、ペナントレースという長い勝負の場では、前年の重量打線から機動力を織り込む緻密な攻撃への転換、役割固定の継投、若手への意図的な投資――という三本柱の改革が機能し、確かな進歩を刻んだ年だった。

【出典】『マネジメント術で読むプロ野球監督論』著:ゴジキ


「大胆さと精密さ」の絶妙なバランスで組織を常勝軍団へと変えた伊東氏。本書が示す「監督論」は、野球ファンのみならず、あらゆる組織で戦う人々にとって強力な指針となるに違いありません。

発売前から大きな反響を呼んでいる本作。その全貌は、ぜひお手にとってお確かめください。

ページ: 1 2

【書誌情報】
『マネジメント術で読むプロ野球監督論』
著:ゴジキ


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原辰徳、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助。
彼らは頑固と柔軟、安定と挑戦、温情と冷徹といった矛盾する問いとどう向き合ってきたか。マネジメントのスタイルは時代を経てどのように変わったのか。強いチームを作る普遍的な方法はあるのか。
『データで読む 甲子園の怪物たち』がヒットした野球著作家が、各監督の特徴を徹底分析。

◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュースの公式オーサーにも選出されている。

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