『伝授』第18回 調教師の技術について伝授

読者の皆さんの中には、予想する際に厩舎を気にする人もいるかもしれない。
そこで、今回はJRAの調教師について、俺なりの考えを書いてみたいと思う。
・調教師業の一丁目一番地は馬主代行業
調教師の仕事の一丁目一番地は“馬主代行業”だ。馬主の代行をして、馬を競馬で使うのが調教師の仕事であって、調教するというのが仕事ではない。
つまり調教を上手にできるかということに対して、JRA側は調教師免許を与えているわけではない。そもそも調教師は何の技術があって調教師になるのか? 調教師試験に受かれば、あなたは調教師ですよって言われるだけだ。
たとえばリーディング上位の調教師が、他の調教師より調教するのが上手いのかといって、おそらく大きくは変わらない。どこの厩舎にいても、ちゃんと調教メニューをこなしていれば、走る馬は走るし、走らない馬は走らない。
飼い葉に関しても、開業したら自分で調合してやりたがる人間がたくさんいたけど、みんな失敗して、結局は市販の配合飼料を与える形に落ち着く。

・結果が出ている調教師と、そうでない調教師の差は運も大きい
結果が出ていない調教師のところに預けられるのは安価な馬ばかりだったりするけど、重賞をバンバン勝つトップ調教師のところは、億単位の馬がゴロゴロいる。
そういう誰もが良い馬だなと思う良血馬を管理していれば、どこかのタイミングで重賞やGⅠを勝つ。もちろん高い馬だからといって全部が全部走るわけじゃないけど、ゲームで良いカードをたくさん持っているのと同じで率としては高い。10頭持つなら、ノーザンや社台の馬が10頭いれば1頭くらいは重賞を勝つ馬が出てくるイメージだ。
はっきり言って、俺は結果が出ているか出ていないかの差は運も大きいと思う。こんなこと言っちゃ元も子もないかもしれないけど、マジで思っているよ。
あとは馬主さんに対して「この馬買ってください」って言える人間と、言えないけど「この人にやらせてあげたい」っていう人間関係を築けるかどうかも調教師の実力のうち。
・騎手から調教師になって成功するには意識を変える必要がある
トップジョッキーから調教師になっても、今の福永祐一調教師のように馬が集まるとは限らない。彼は良いタイミングでキャリアチェンジしたのと、皆に嫌われないというところが大きい。

残念ながらジョッキーというのは、世の中の地位のある人たちとの付き合いが主で、ジョッキーの時にはかわいがられていても、それが調教師になったら通用しない。
今度はオーナーと使用人みたいな関係になるのに、なかなかそれが理解できない。仲が良いと言っても、何億とかの馬を預かっている立場で、ジョッキー時代のような関係では上手くいかない。
一方、お世辞にも一流だったとは言えないジョッキー時代だった田中博康調教師は、調教師になって上手くやっている。騎手時代から将来を見据えて、頻繁に色々な牧場に行っていたし、外国にも行っていた。休みの日でも牧場に乗りに行くようなこともあって、人間関係の繋がりを大事にしていた。馬主や牧場だって、そういう一生懸命な人には「また来ているのか。じゃあ預けようか」となる。

それを勘違いしているジョッキーは「俺はあの馬主の馬にたくさん乗っていたから、放っておいてもたくさん預託してもらえるだろう」と考えて何もしないけど、それは間違っている。
ジョッキーの時は持ち上げられていても、調教師になって成功するには意識を変えることが必要だ。
こういった現実を面白いと思うか、くだらないと思うか、良いと思うか悪いと思うかは人それぞれ。ただ、繰り返しになるが「調教師になる人は調教するのが上手い人」「調教技術の高い人がリーディング上位にいる」という単純なものではないことを読者のみんなに伝えたかったので今回のコラムを書いてみたよ。








