『伝授』第19回 ダート馬について伝授

 芝でデビューしたけど、ダートに路線変更して一変する馬がいるし、その逆もある。今週はダートGⅠ・チャンピオンズカップもあることだし、芝馬とダート馬の違いについて、俺なりの考えを書いてみたいと思う。

・昔のダート馬と今のダート馬は求められる能力が違う

 昔のダートは今の軽い砂と違ってパワーが必要だったから「この馬は絶対にダートは走れないよね」という馬と、「この馬は間違いなくダート馬だね」という馬は筋肉の付き方で区別が容易だった。 
 具体的にはヨロと呼ばれる部分、ひばらから入ってくるところのお尻の前のところの筋肉で、そこが発達していることが昔のダート馬には必要な条件だった。
 トップレベルの調教師だった伊藤修司氏は、その筋肉だけを見て「これは走るダート馬だぞ」とか言っていたし、俺より年上の調教師だったら見分け方がわかる人が多いと思う。
だけど、今はダートが軽くなっているから、ヨロの部分の筋肉がなくても走れる。逆に明らかにヨロが発達しているとパワーが勝りすぎて、スピードも必要な今のダートでは勝てない可能性が高い。
 ちなみに、日本競馬では芝で遅くて結果が出せなかった馬が仕方なくダートに行くケースがほとんど。もし芝で対応できるスピードがあれば芝で走ったほうがいい。例えば、先週のジャパンカップと今週のチャンピオンズカップの賞金は同じGⅠでも何倍も違うだろ?

ダートから芝で変わり身を見せたサンアディユ

 ダートから芝で変わり身を見せるケースは、陣営が芝に適性があるとわからなかった場合と、脚元に不安があって初めからはパンパンの芝を使えなかった2パターンが主だ。
古い話になるけど、2005年にデビューしてから一貫してダートを使われてきて、2007年に初めての芝でアイビスサマーダッシュ勝ったサンアディユという馬がいた。
 今でいう3勝クラスで勝利したけど、その後はOPと重賞ではダートでも結果が出せていなかったから、アイビスサマーダッシュに出走した時は13番人気だった。だけど、その勝利は決してフロックではなく、その後もセントウルSや京阪杯を勝ち、スプリンターズSでも2着になった。
 サンアディユは、俺が見てみてもダート馬だと思っていた。外国血統で見た目もゴツかったし、芝の瞬発力はないと思っていた。実際に瞬発力はなかったんだけど、芝の短距離をワンペースでバンと行って押し切るスピードがあった。
 結局、競馬は前に行って残せる馬が不利も受けにくくて一番勝つ確率が高い。具体的にはサイレンススズカのような馬が最も理想形なんだよな。

サンアディユは2007年のサマースプリントシリーズを制した

あえてダートでデビューさせることも

 一般的に馬主は芝の王道路線を使って欲しいと希望することが多く、それで結果が出せなかったらダート路線にシフトする。
 だけど、二ノ宮敬宇氏は、エルコンドルパサーに限らずダートでデビューさせるのが好きだった。理由は強い馬ならダートでも勝つから、脚に負担のある芝レースを無理に早いうちから走らせず、芝を走るのはクラスが上がってからでも良いと考えていた。もちろんダートが絶対にダメという判断をした馬には芝デビューもさせてたけどな。
 ちなみに、ダートはどちらかというとスタミナが必要で、芝と比べて時計が遅い。走りのフォームで芝馬とダート馬の違いが出る場合はあるけど、現代競馬ではそれほど大きな差はないかなという程度になっているよ。

ジャスティンミラノの仔は走るはず

 新馬戦なんかは予想の参考にする材料が少ないから、血統に判断材料を求める新聞やファンが多い。ダート血統とか、短距離血統とか言うだろ?
 本題から少しズレるが、俺は基本的に血統を重視しない。ただ、まれに父馬と同じかそれ以上の雰囲気を感じさせる良い馬が出てきたら頭に入れておく。
 そう感じた印象が強いのは、近年だとロードカナロアやキズナ。種牡馬としても成功すると思ったよ。最近だったら昨年の皐月賞を勝ったジャスティンミラノも父・キズナに負けない馬体の良さだったから、産駒には期待できると思う。

 基本的にスピードは遺伝で受け継げる確率が高いので、速い馬同士を交配するのが理想。逆にスピードがない馬からは、突然変異でもない限り速い馬は生まれない。距離が持つかどうかはその後の問題だよ。
 
 年内の連載はこれで最後とする。2026年も書き続けるかは有馬記念が終わってからの気分次第だな(笑)。

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