甲子園で154㎞/hを投げる「小さな巨人」のスラッガー│今宮健太(2008・2009年、明豊)

遊撃手としても投手としてもハイレベル

 その後、最短距離でバットを出すコツをつかみ、その後の4カ月間で32本塁打を量産したのだ。この夏までの期間で自身のレベルを上げ、今宮は甲子園に戻ってきた。そして最後の夏の甲子園で島袋洋奨
(元・福岡ソフトバンクホークス)を擁する興南、秋山拓巳(元・阪神タイガース)がエースの西条、庄司隼人(元・広島東洋カープ)のいる常葉橘といった好投手が揃う強豪校と対戦することになる。

 初戦の興南戦は先発し、先制こそ許したが粘りのピッチングを見せ試合を作る。打撃面では島袋に疲れが見えはじめた6回に追い込まれながらも、反撃の狼煙を上げる技ありのタイムリーを放つ。さらに、8回には二死からツーベースを放ち、同点になるチャンスメイクをした。そして、最終的にはサヨナラ勝ちをした。序盤こそ、当時2年生ながらも好投を見せていた島袋相手に苦戦したが今宮が打線のキープレイヤーとなり、見事な逆転勝ちをした。西条戦はノーヒットに終わったものの、打線が秋山を攻略して勝利。

 常葉橘戦は死闘となる。明豊は先制するものの、逆転を許してすぐさま今宮がマウンドに上がる。7回2/3を投げ、7奪三振・自責点2の好リリーフを見せたのだ。さらには、153㎞/hを記録するなどロングリリーフながらも記録的にもインパクトを残した。打っては1点ビハインドの9回に同点タイムリーを放つ。最後は延長で投げていた庄司から勝ち越し、ベスト8に進出した。

 準々決勝はセンバツで敗れた花巻東。菊池対策を披露する場としてはこの上ない舞台が揃った。しかし、菊池は怪我の影響で本調子からほど遠かった。今宮との対戦もインコースはほとんどなく、外角ばかりだった。

「投げている姿を見ておかしいなと気づいていました。内角の直球を待っていたし、微妙な気持ちになったのは確かです。でも、雄星を打つためだけに努力したのではない。みんなで花巻東に勝つことが目標だった。だから切り替えるわけでもなく、モヤモヤした気持ちはありませんでした」。試合は終盤までわからない接戦になり、先発した今宮はリリーフで再度マウンドに上がる。リリーフとして登板した9回に154㎞/hを記録するのだ。最後はスライダーで三振を取り、ピンチを凌いだ。しかし、10回に力尽きて決勝タイムリーを許し敗退した。

今宮の甲子園での成績。数字以上に「投」の印象も強かった

 この大会の今宮は、投手兼野手の「二刀流」として成績以上に素晴らしい活躍をしたのではないだろうか。今宮が出てくるまでは、投手でありながら野手として活躍する選手は、一塁手または外野手が多かったなかで、チームの要となるセンターラインの遊撃手としても非常にレベルが高かった。現在の高校野球では「継投策」が大きなポイントとなっているが、投手起用もプロ野球よりもユーティリティな起用が増えている。

 この今宮のように、通常のリリーフやクローザー的な役割から、先発ながら短いイニングを投げるオープナー起用、複数イニングをまたぐストッパー起用、一人の選手が先発と中継ぎを両方こなす起用法など、その内容は多岐にわたる選手が増えていっている。

 継投がメインではない時代に、投手兼野手として高いレベルのパフォーマンスを残した今宮の価値は非常に高く、身体能力が高い選手が守る遊撃手との併用としてはパイオニアのような存在だ。この今宮のように投手をやりながら野手として活躍できる選手は今後も増えていくだろう。

本文は『データで読む甲子園の怪物たち』(ゴジキ著:集英社刊)より

ページ: 1 2

【書誌情報】
『データで読む甲子園の怪物たち 』
著:ゴジキ


【Amazonで購入する】

甲子園を沸かせてきた高校野球の「怪物」たち。高校生の時点で球史に名を残した選手たちは、プロ野球選手として大成功した者もいれば、高校時代ほどの成績を残せず引退した者、プロ野球の世界に入れなかった者もいる。甲子園で伝説を残した選手のターニングポイントはどこにあるのか? そしてプロでも活躍する選手たちが持っている力とはなにか?名選手たちの甲子園の成績や飛躍のきっかけになった出来事の分析を通して、高校野球における「怪物」の条件と、変わりゆくスター選手像、球児たちのキャリアを考える。

【21世紀の高校野球の記録と記憶に残る32選手の軌跡を収録!】
ダルビッシュ有 田中将大 森友哉 髙橋宏斗 藤浪晋太郎 梅田大喜 真壁賢守 町田友潤 伊藤拓郎 吉永健太朗 松本哲幣 上野翔太郎 斎藤佑樹 浅村栄斗 今井達也 中村奨成 吉田輝星 寺原隼人 平田良介 佐藤由規 中村晃 菊池雄星 清宮幸太郎 中田翔 今宮健太 大谷翔平 根尾昂 山田陽翔 鷲谷修也 副島浩史 島袋洋奨 佐々木麟太郎

ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。著書に『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)、『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)など多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターをはじめとして、メディアへのコメント寄稿を多数おこなう。

この記事のCategory

インフォテキストが入ります