高校通算111本を誇る華やかさを兼ね備えた大型スラッガー│清宮幸太郎(2015・2017年、早稲田実業)

ドラフトでは7球団が競合

 翌年は新3年生としてセンバツに出場する。初戦の名将馬淵史郎氏が率いる明徳義塾戦では1安打に終わったものの、2打席目にセンターに大飛球を放った。馬淵氏が「あの振りはさすが。センターフライは最近では見たことがないような打球だった」とコメントするほどだ。初戦はなんとか勝利したが、2回戦で敗退を喫した。最後の夏に向けて調子を上げていくようにホームランも量産していった。春季大会では7本のホームランを記録し、文句なしの活躍を見せていた。清宮がいた西東京大会の人気や注目度は凄まじく、甲子園の出場権がない春季大会をAbemaTV(現・ABEMA)で放送したほどだ。

センセーショナルだった1年夏の活躍

 この夏は清宮の覚悟も感じられる活躍を見せる。順調に勝ち上がっていき、2年夏の西東京大会で敗れた3年夏準決勝の八王子に対し、7回に高校野球史上最多に並ぶ107号ホームランを記録。そして、あと一つ勝てば甲子園出場になる。相手は日大二に勝利した東海大菅生。明治神宮野球場全体は早実を後押しするかのような雰囲気だった。清宮の人気は凄まじく、相手の東海大菅生からすると、圧倒的なアウェイの状況だった。

 ただ、東海大菅生はこの大会で松本健吾(現・東京ヤクルトスワローズ)が覚醒し、そのほかのメンバーを見ても戸田懐生(現・読売ジャイアンツ)や田中幹也(現・中日ドラゴンズ)といったゆくゆくはプロ入りした選手を擁し、清宮・早実打線への対策を徹底的にしてきた。東海大菅生の選手たちは「仮に早稲田に勝つ、日大三高に勝つという意気込みだと、それを達成してしまったら、次の目標がなく負けてしまう。だから、自分たちは常に『全国制覇』と言い続けて戦っていました」と言うように当時甲子園で優勝候補だった早実に対しても、気負うことなく挑んできた。

 東海大菅生の若林弘泰監督も、主力の清宮と野村大樹(現・埼玉西武ライオンズ)の前にランナーを出さないことを最優先とし清宮は歩かせていいと指示していた。それにより、松本と鹿倉凜多朗のバッテリーは気が楽になったのだろう。結果的に、野村には3安打を許したが清宮は単打の1安打のみに抑えた。鹿倉は「清宮、野村を出して(出塁させて)も、他の7人を抑えれば点は取られない」と試合前に語っていた。主導権を握れなかった早実は最終的には、松本に完投され甲子園を逃した。

 清宮の最後の西東京大会の成績は、打率5割・4本塁打・10打点・OPS1.389。甲子園の成績自体は1年生の夏がピークだったが、高校通算111本塁打の記録に違わぬ力を見せつけた。その記録を評価され、ドラフト会議では7球団が競合し、北海道日本ハムファイターズに指名される。 

 プロ入り後は、燻っていた時期もあったが新庄剛志氏が監督就任後に覚醒し、2024年シーズンでは規定打席未到達ながらも打率3割・15本塁打・51打点・OPS・898を記録。WBSCプレミア12の代表にも招集された。まだまだ若手から中堅に差し掛かりつつある2025年、今後は球界を代表する打者に育つことを多くのファンに期待されている。

本文は『データで読む甲子園の怪物たち』(ゴジキ著:集英社刊)より。

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【書誌情報】
『データで読む甲子園の怪物たち 』
著:ゴジキ


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ダルビッシュ有 田中将大 森友哉 髙橋宏斗 藤浪晋太郎 梅田大喜 真壁賢守 町田友潤 伊藤拓郎 吉永健太朗 松本哲幣 上野翔太郎 斎藤佑樹 浅村栄斗 今井達也 中村奨成 吉田輝星 寺原隼人 平田良介 佐藤由規 中村晃 菊池雄星 清宮幸太郎 中田翔 今宮健太 大谷翔平 根尾昂 山田陽翔 鷲谷修也 副島浩史 島袋洋奨 佐々木麟太郎

ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。著書に『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)、『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)など多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターをはじめとして、メディアへのコメント寄稿を多数おこなう。

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