生産者と共に歩むワインインポーター・金井麻紀子さんに聞く “超本格自然派ワイン” が一生モノの理由

2025年秋発売『「マキコレ」ではじめる 一生つきあえるワインはどこにある?』の著書・金井麻紀子さんは、フランスワイン生産者必須の国家資格を持つワインインポーター。ブドウ栽培から醸造、経営に至るまでワインに精通し、フランスやイタリアで出会った稀有なワイン生産者を日本に紹介しています。
取材・文:小林由佳 協力/ビストロ 1 1 1 撮影/天野憲仁(日本文芸社)
ワイン産地巡りで気づいた、本当に美味しいワインの背景
金井さんは高校卒業後、芸術家になることを夢見て渡仏。酒店を営む父の紹介で、ワイン業界に携わるご夫婦の家にホームステイしました。その時体験したワイン作りをきっかけに、今の道に進む決心をしたとか。
ボーヌの国立農業専門学校卒業後、日本人ワインインポーターには数少ないBPREA* 取得だけでなく、フランスワインの醸造や文化への貢献を讃える称号(Chevaliers de Vignerons de Saint Vincent 2003年)授与。さらに「世界カーヴェストコンクール(ローラン・ペリエ主催 2003年パリ大会)」では、日本人初かつ女性初のファイナリストに選出され、5位という成績を収めました。そんな金井さんのコレクション「マキコレワイン」は、“超本格自然派ワイン” がコンセプト。
*農業経営責任者専門免状

―― 自然派ワインって、当たり外れが多い気がするんですが……
金井:フランスでは約20年前から自然派ワインが注目され始めましたが、アペラシオン* のない自然派ワインでも、可愛いエチケット(ラベル)がジャケ買いする若者の間で人気になったりして、玉石混合の状態でした。でも近年のフランスは、農法や醸造がきちんと自然派といえるものを “自然派ワイン” と呼ぶ風潮になってきています。
* 法律に基づく原産地呼称。産地限定のブドウ品種、栽培方法、醸造方法などの規定をクリアした証
―― 金井さんはワイン業界に入った時から自然派ワインに注目していたのですか?
金井:いえ、いろいろなワイン産地を巡るうちに、本当に美味しいと思ったワインの生産者が、みんな有機農法でブドウを育て、発酵や醸造も自然にあらがわない健全なワイン作りをしていると気づいたんです。
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マキコレワインには、農薬ゼロの自然農法で低収穫・完全に完熟したブドウの手積み・腐敗果は使わない・SO2(二酸化硫黄。ワインの酸化防止剤・抗菌剤として添加)をできるだけ使わないなど、厳しい基準があります。これが一般的な自然派ワインの一歩先をいく、超本格自然派ワインたる由縁。繊細な味覚を持つ日本人を満足させる、本物のワインだと金井さんは言います。

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―― マキコレワインの基準に叶う生産者は増えているんですか?
金井:少しずつ増えていますが、経営難による廃業や、オーナーが代わり大量生産向けに有機農法をやめたところもあります。自然を重んじた土壌作りや醸造法を貫く超本格自然派ワインの生産は、まさに苦行なんです。
―― 苦行! ワイン作りって、なんか優雅なイメージだったのですが……
金井:同じ畑、同じ品種でも毎年の気候条件でブドウのキャラクターは変わります。そして、たとえば25歳で家業のドメーヌを継いでも、引退を考える65歳までブドウの収穫は40回だけ。その中でワイン作りを極めるには、常に向上心を持ち、経験と研鑽を重ねて取り組める才能が必要です。だからこそ、超本格自然派ワインを作る生産者は貴重なんです。マキコレワインの美味は生産者の人間性の賜物ですが、その人柄は簡単には語りきれない。ストイックさと根性と努力、絶対に甘えないという、強靭な意志のある人ばかりです。
生産者を知ることが美味しいワインへの近道
――著書には数百年続くドメーヌも登場しますが、次世代の生産者にも期待していますか?
金井:そうですね。超本格自然派ワインの生産者の中でも、とくに若い世代は味覚が繊細で情報収集に優れていると感じます。先祖代々のブドウ畑を伝統的農法で守りながら、新しい考えを試すことにも意欲的です。
―― どの生産者の写真からも、金井さんとの親交の深さが伝わってきますね
金井:何度も訪ねているので、いつも遠い親戚が来たかのように迎えてくれます。この本には数年かけて育てたドメーヌも登場しますが、私が日本にいる時も “ちょっと醸造の相談がしたい” と電話がきます(笑)。
ちなみに私も3回醸造を経験しているんです。とくに2006年に醸造したワインは、控えめに言ってもブルゴーニュのトップドメーヌより美味しかった(笑)。醸造させてもらったドメーヌの息子さんに “どうやってこんなに美味しくしたの?” と聞かれましたが、“お父さんのブドウがいいからよ” と。これは本当です。ワインの99%はブドウの出来で決まります。

――だからブドウ畑の土壌に関しても詳しく紹介されているんですね。それにしても、フランスのワイン生産者から醸造を相談されるインポーターなんて、日本唯一なのでは(笑)
金井:収穫や醸造など生産者がドメーヌから離れられない繁忙期に、私はあちこちの産地を回れます。だから、たとえば “日照り続きでブドウが焦げちゃう” と嘆くブルゴーニュの生産者に、“南では葉っぱを剪定せずに日陰にしていたよ” と紹介してみたことも。
――各地で生産者と交流を深めてきた金井さんの強みですね。私はワイン通ではないのですが、この本は、専門用語に捉われず読み進むとフランスを旅している気分になるし、各ドメーヌ紹介の後にそのドメーヌのおすすめワインも紹介されていて、もう飲まずにはいられなくて(笑)
金井:ワインビギナーも楽しめるよう、ブドウ畑にいる羊や、手作業でエチケットを貼る当主の写真など “現地で見たまま” をたくさん載せましたが、作業を的確に示す専門用語は必要なので、巻末に用語集をつけました。
でもワインの知識云々より、まずは多くの人に素晴らしいワイン生産者たちを知ってもらいたいという願いでこの本を書いたんです。超本格自然派ワインの美味しい理由がわかれば、識者やレビューに頼らずに、“一生つきあえるワイン” を自分で探せるようになると思います。
ワイン業界の人も満足できる内容ですと金井さんがいうこの一冊は、これまで “ワインは難しい” と思っていた人の感覚も変えてくれそうです。30年来ワイン産地を訪ね歩いてきた金井さんならでは、生産者へのリスペクトと愛情に溢れたストーリーが、正しい美味は正しい造り手によるものだと気づかせてくれます。
▼本書の刊行記念イベントの記事はこちらからご覧いただけます。
https://love-spo.com/article/makicolle-wine-1/
【著者紹介】
金井麻紀子(かない・まきこ)

ワインインポーター、カーヴかない屋社長。フランスのボーヌにある国立農業専門学校でワインづくりから販売まで学び、フランス農林水産省が認める醸造責任者資格BPREAを取得。1998年に独自のブランド「マキコレワイン」を立ちあげ、フランスを中心にヨーロッパの優良なワインを日本に紹介している。
https://www.cave-kanaiya.co.jp
【本記事の取材・文】
小林由佳(こばやし・ゆか)
フリーランスライター・編集者。企画ディレクションからインタビュー取材までを手がけ、ジャンルを問わず幅広いコンテンツ制作に携わる。
【書誌情報】
『「マキコレ」ではじめる 一生つきあえるワインはどこにある?』
著:金井麻紀子
フランス醸造責任資格をもつインポーターと探す「本当においしい」理由
おいしさの理由……それは、産地でも知名度でも、ましてや価格でもない。つくり手のすばらしい個性と物語を味わう!
ドメーヌの人々のストーリーを読んでみると、一見同じ農法や醸造法も個性があることに気づくでしょう。
先進技術、あるいは伝統、ブドウへのこだわり、土壌の違い、人々の歴史。
あなたが気になる視点はどれでしょう。次の一本はぜひ、そこから選んでみてください。
それを「マキコレ」で試すことができるのも、この本のいいところ。
ドメーヌが語るユニークなエピソードは、この一本だけは試してみたいと思わせるはず。
飲んでみて、おいしいと思った要素が何に由来するのか、本と答えあわせしてみてもいいかもしれません。

