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曹操は袁氏を滅し、全土の大部分を領有【三国志】

Text:澄田 夢久

文醜が罠にはまって関羽に斬らる

曹操は、文醜が攻め寄せてくるのを望見すると、囮おとりの糧秣や軍馬を捨て置いた。文醜には、曹操の策を見抜く力はない。兵らは糧秣を搔き集めることに没頭するのみ。そこに曹操軍が討ちかかったのだから、逃げ惑うばかりである。

一散に逃げる文醜を追ったのは、張遼と徐晃だ。だが、さすがに剛勇の文醜、二人を迎え撃つ。たじたじとなった張遼と徐晃は馬を返すが、そこに疾風のように飛び込んできたのが関羽だった。

文醜は、関羽の偉容に戦意を挫かれ、逃げんとするが、赤兎の脚は見る間に追いつき、背後から関羽の一刀を浴びて落馬、絶命するのである。その好機を曹操が見逃すはずもなく、人馬を駆り立て、一気に文醜軍に襲いかかって黄河に追い落とした。

袁紹軍は、顔良、文醜と名の聞こえた部将が斬り死にしたことで意気阻喪、陽武まで兵を引く。曹操は、官渡を固めて許都に凱旋した。緒戦は曹操の大勝利に終わったのである。その後も関羽はしばしば出兵して敵を討ち破るが、心中に去来するのはいつに劉備の安否であった。

ある日、袁紹に属する陳震が関羽の知人を装い訪おとなってきた。人払いをして何用かを問うと、なんと劉備の手紙を持参したのだという。見ればまさしく劉備の筆跡だ。

「桃園にて共に死のうと誓った足下だが、いま何ゆえに道が二つに分かれたのか。雲長(関羽)が真から功名を得たいと望むなら、この玄徳の首を献じよう。書簡では意を尽くせぬゆえ、死を賭してきみの返事を待とう」とのあらましである。

関羽の両眼から滂沱と流れ落ちた涙。呻きながら「誓いに背いたりするものか」、腹は決まった。関羽は、曹操へ感謝と別れの手紙をしたため、賜った褒美の金銀に封印をして漢寿亭侯の印を掛け、二夫人を伴って従者らとともに去っていく。

曹操はその知らせに愕然とするが、「漢寿亭侯の印を掛けて去ったのは、金銀財宝はおろか爵禄さえも、旧主を思う心を変えることができないということだ。孟徳はかような人物ゆえに心から敬愛する」と述べ、自ら出向いて関羽に追いつき、戦袍を餞別として見送るのである。

関羽の脱出行には、曹操の指示の伝達が遅れたことで、五関を守る将六人を漸次斬り捨てるという椿事が起きる。が、ここは関羽の見せ場でもある。ようよう関羽一行は黄河の渡船場に参着。そこへ劉備配下の孫乾が現れ、「袁紹陣営は参謀や部将の確執で混乱の中にある。劉備は難を逃れて鄴を離れ、汝南へ向かっている。関羽もそちらへ向かってほしい」との言付けだった。

やがて徐州の古城に差し掛かると、なんと県城を占拠しているのは張飛だった。張飛も劉備と離れ、ここを拠点に劉備を探していたのだ。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 三国志』
著:澄田 夢久 監修:渡邉 義浩

シリーズ累計発行部数160万部突破の人気シリーズより、「三国志」について分かりやすく解説した一冊。魏・蜀・呉、三国の興亡を描いた『三国志』には、「桃園の誓い」「三顧の礼」「出師の表」「泣いて馬謖を斬る」など心打つ名場面、また「水魚の交わり」「苦肉の策」「背水の陣」「髀肉の嘆」など名言や現代にも通じる格言も数多く登場する。また、曹操、劉備、孫権、孔明、関羽、張飛、趙雲、周瑜、司馬懿など個性豊かで魅力的な登場人物に加え、官渡の戦い、赤壁の戦い、五丈原の戦い等、歴史上重要な合戦も多い。英雄たちの激闘の系譜、名場面・名言が図解でコンパクトにすっきりわかる『三国志』の決定版!

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