第13回 年末恒例となった総当たりリーグ戦の裏に見え隠れする一抹の不安~巨大ロースター故の問題に今後AEWはどう立ち向かっていくのか?

Text:岩下英幸

年末恒例となったリーグ戦の優勝に早くも赤信号が灯っているオカダ・カズチカ。ここからの逆転劇はかなり至難の業に思えるのだが、果たして・・・。 – 2024年11月27日(現地時間) イリノイ州シカゴ ウィントラスト・アリーナ –

■G1クライマックスを完全踏襲した画期的リーグ戦
プロレスにおいて”夏の風物詩”といえば、新日本プロレス(以下、新日本)が夏の時期に開催する、すべてがシングルマッチによる総当たり戦で行われるG1クライマックスを置いて他にないだろう。今年は、AEWの竹下幸之介が”外敵”として初参加したことでも記憶に新しいが、AEWにおいてもこれと同様の、総当たり式のシングル戦で最終的な優勝者を決めるというスタイルのシリーズがある。それが、今現在AEWで開催されている「コンチネンタル・クラウン・クラシック」だ。

参加全12人選手が、「ゴールド」と「ブルー」という2つのグループに分かれ、20分1本勝負のシングルマッチをリーグ内の選手が総当たりで行い、最終的に勝ち点の総計が多いレスラー同士が、それぞれリーグを代表する形で優勝決定戦を行って勝者を決める。参加選手やリーグの数こそ違えど、まさにG1クライマックスを彷彿とさせるスタイルなのだが、それもそのはず。AEWの社長であり、個人的にも大のプロレスマニアであるトニー・カーン自らが、G1クライマックスを模した形式として2023年より導入したのが、このシリーズなのである。

今年の出場者を見渡してみると、さらに面白い。現在、コンチネンタル・クラウンの王座を保持しているチャンピオンのオカダ・カズチカを筆頭に、ウィル・オスプレイ、カイル・フレッチャー、リコシェと、まさに新日本のマットで活躍した外国人レスラーの多くが顔を揃えているのだ。逆に前述の竹下は”AEWのレスラー”として本家のG1クライマックスに出場しているという逆転現象は、AEWと新日本とが強固な協力関係を築いているのが前提とはいえ、つくづく隔世の感がある。

なお、オカダ自身は初開催となった2023年のシリーズには、もちろん参戦していない。オカダがAEWに正式に加入したのは2024年になってからである。では、なぜオカダが現在同王座を保持しているのかといえば、去年このシリーズをジョン・モクスリーとの激闘を制して初代王者となったエディ・キングストンとの王座戦が、AEWにデビューした直後のオカダとの間に戦われ、そこで見事に初挑戦にして初の王座を奪取したためだ。その後はすべての挑戦者を退け、現在も王者として君臨しているという図式である。

■チャンピオンとしてのオカダ・カズチカの立ち位置の不自然さ
筆者がこの原稿を書いている段階では、概ね各リーグ共に2~3試合ほどがそれぞれのレスラーによって闘われているが、その星取りぶりには若干の違和感を感じざるを得ない。つまり、現在の同王座のチャンピオンであるオカダ・カズチカの置かれた状況だ。

現在、オカダは初戦をいきなり引き分けて、勝ち点「1」からスタート。続く第二戦では、危なげなく勝利を収めて勝ち点を「4」としたものの、第三戦で相手となった元新日本のカイル・フレッチャーに、レフェリーのブラインドの隙をついた姑息な反則絡みの攻撃で、あっさりと負けを喫してしまったのだ。

すでに3連勝を重ねた同リーグ内のフレッチャーが勝ち点を「9」にまで伸ばしているのと対照的に、ディフェングチャンピオンたるオカダが、すでにリーグ内での敗退に黄色どころか赤信号が灯っているという危機に瀕しているのだ。無論、まだ2試合を残しており、最終的な結果については余談を許さないところではあるのだが、終盤の逆転劇を演出するにしても、リーグ内で1位になるのは、かなり高いハードルを課せられているように思えてならない。

このシリーズでの優勝決定戦は、現地時間の12月28日のPPV「ワールズ・エンド(WORLDS END)」の目玉カードとして行われるため、各レスラーの勝敗の行方は俄然ファンの注目の的なのだが、その舞台にオカダの名前が載らないという事態にまで発展する気配なのだ。そして、このリーグ戦にエントリーしている所属日本人選手はといえば、唯一オカダ一人だけであり、そしてこの星取り模様である。オカダというビッグネームを持ってしても、年末のPPVの出場すら叶わないとなれば、その他の所属日本人選手にもなかなか陽の当たる機会が訪れにくい状況なのではと、筆者としては危惧してしまう。

■あまりに巨大化したロースターが招く団体内の危機感
所属選手を意味する「ロースター」だが、AEWのそれは現在膨大と言えるほどに膨らんでしまっている。オカダやオスプレイ、フレッチャーは言うに及ばず、WWEを退団してAEW入りを果たしたリコシェやリオ・ラッシュなどの日本での馴染みのあるレスラーなど、2024年になってもAEWへの移籍ラッシュの勢いは止まらない状況だ。他団体でも人気を博したレスラーが次々と所属になるということは、一見するとビジネスの面から団体の勢力拡大に大きなプラスの影響をもたらすことは、一面で事実なのだが、そこにはパラドックスとも言える大きな別の問題も常に内包している。

現在AEWは、団体創設当時からメイン番組である「Dynamite(ダイナマイト)」、2023年4月より新たに始まった「Collision(コリジョン)」、そして録画番組である「Rampage(ランペイジ)」という3番組が、前者2つは2時間、後者は1時間と、単純計算で5時間もの番組を全米大手ケーブルテレビで放映している。これに常に4時間以上を越える、ほぼ毎月行われる有料放送であるPPVが加わるため、日本におけるプロレスのテレビ放映の時間と比べては、その差はまさに比べ物にならないほどに圧倒的な物量と言える。

だが、それだけの放映時間があっても、AEWが抱えるロースターがあまりに巨大な上に、当然ながらそれらの番組に出演して試合やプロモを行うレスラーはごく限られた人数に制限されてしまうのだ。さらに、視聴者は、毎週に渡る連続した”プロレス内ドラマ”を楽しみにしていることもあり、その点からもトップスターばかりが番組をまたいで出演するのが前提であり、ますます”補欠のレスラー”が出演の機会もなく、言い方は悪いが”飼い殺し”のような状態になってしまっているのだ。

そんな団体事情も鑑みるに、先に述べた今回のコンチネンタル・クラウン・クラシック」におけるオカダの立ち位置の微妙な変化も、膨張し続ける巨大ロースターの弊害の波の煽りを、あるいは喰らってしまっているものなのかと勘繰ってしまうのも、無理もないことだ。文字通り鳴り物入りというべき、華々しいまでに衝撃的だったオカダのAEW移籍劇は、振り返ればわずか8カ月前の今年2024年に起きた出来事なのだが、そのことをつい忘れてしまうそうになるほど、事態は急変の度合いを加速している。これはオカダを含む各選手達の実力やポテンシャルといったことが問題なのではなく、団体の方針という制度疲労が招いている悪しき結果だと、筆者としては思わざるを得ないのだ。

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