第5回 プロ1年目のボクが絶対に「開幕一軍」をつかまなければいけなかった理由
ドラフトで指名される選手は2パターンに分かれる
『ラブすぽ』読者のみなさま、読売ジャイアンツの高梨雄平です。この連載コラムも今回で5回目ですが、楽しんでいただけてるでしょうか? 前回のコラムでは、僕が2016年ドラフト9巡目で東北楽天ゴールデンイーグルスに指名されたときのことを書きましたが、今回はプロに入って1年目。僕がプロでやっていくために何を意識していたかを伝えたいと思います。
そのためにはまず、当時の僕の立場を書かなければいけません。下位指名の9巡目だったとはいえ、プロ入り時の僕は大学、社会人を経由して入団した24歳の左投手。ドラフトで指名される選手はざっくり分けると2パターンに分かれます。ひとつは「将来性を評価して、球団が『投資』目的で獲得したタイプ」もうひとつは「将来……ではなく、今すぐに働いてほしくて獲得したタイプ」。僕がどちらにカテゴライズされるかと言ったら、どう考えても後者でした。
まだプロ1年目でしたけど、早い時期に結果を残さなければ確実にカット対象になる――。それは入団時、もっと言えばプロ入り前から十分理解していました。そのためにまず設定したのが「開幕一軍」という目標です。目標というより、こなさなければいけない最低限のタスクと言ったほうがいいかもしれません。
それは、なぜか――。「普通」のルーキーであれば1年目はプロのレベルや世界に慣れ、シーズン途中や2年目以降に一軍に上がるというストーリーでも問題ありません。ただ、僕の場合は少し違います。一刻も早く一軍で活躍するためには、まずチームから「こいつには一軍でやれる実力が備わっている」と最初から認識してもらう必要があったんです。
たとえば開幕一軍に選ばれても、ルーキーですからシーズン中に課題が見つかったり、疲労で二軍に落ちるケースはよくあります。ただ、そこから再び一軍に上がることを考えたとき、「この選手は万全なら一軍でやれる」「この課題を克服すれば、一軍で計算できる」と思ってもらうのと、「開幕は二軍だったけど、成長してきたから一軍で試してみようか」と思われるのでは、大きな差があると考えたんです。使う側からすれば、当然「もともと実力は備わっている選手」のほうが安心して一軍に上げることができる。だからこそ、プロ1年目から……むしろプロ1年目だからこそ、「開幕一軍」をつかむ必要があったんです。
もちろん、これはすべてのルーキーに当てはまることではなくて、「僕のようなタイプの選手」だからこそ行きついた考え方でもあります。こういう思考はプロ入り前、今思えば学生時代から持っていたような気がします。
たとえば、大学の同級生に有原航平(現ソフトバンク)がいるんですけど、彼は入学した時点で誰が見ても素晴らしい素質を持っていて、周囲からも「卒業したらドラフト1位でプロに行くんだろうな」という目で見られているような選手でした。
一方の僕は、高校時代の監督からも「お前みたいなタイプは最初から結果を出さなければ埋もれるぞ」と言われていたので、1年の時から目一杯アピールして、早くから結果を出すことを目指していました。「伸びしろ」に期待してもらうのではなく、まずは「活躍する」ことが先。大学時代は3~4年時に結果が出せなかったんですけど、下級生の時の「活躍」も加味してもらえて社会人でプレーすることができたので、そんな成功体験も影響していたかもしれません。
出し惜しみは一切しない!
「開幕一軍」をつかむ上で、前回のコラムでも書いた「曲がらないスライダー」が自主トレ期間中に急に曲がるようになったことも大きかったです。サイドスローに転向して、まったく曲がらなかったスライダーが、ある日突然「ギュン!」と曲がるようになった。正直、理由はいまだによく分かっていません(笑)。「感覚をつかんだ」としか言いようがないのですが、とにかくそれまで武器にしていたシュートだけでなく、スライダーも使えるようになったことで、ピッチングの幅は間違いなく広がりました。
そこからは、キャンプ、オープン戦と「出し惜しみ」は一切しない。自分のすべてを出して、「一軍でやれる実力がある」ことをチームに示し続けるだけでした。結果的に目論見通り、開幕一軍にも選んでもらえましたし、5月の頭に二軍に落ちましたが、これも正直言って想定通り。先ほど書いたように「一度落ちても、課題をクリアすればまた上げてもらえる」と考えていました。
結果、約1カ月で一軍に復帰できて、そのあとはシーズン最後まで一軍で投げ続けることになります。ルーキーイヤーの僕は46試合に投げて1勝0敗14ホールド、防御率1.03という数字を残せたのですが、それ以上に「開幕一軍から、一度落ちて再登録。その後は一軍で投げ続ける」というプランが、自分でも驚くほど「想定通り」で少しビックリしたくらいです。
ただ、プロの世界では1年だけ結果を残せたところで意味がありません。僕はプロ野球という世界に「メシを食いに来た」ので、できるだけ長く活躍する必要があります。そのために、僕がやっていること、意識していること……それは、次回のコラムで書こうと思っているので、お楽しみに!
公開日:2024.09.15