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メジャーの夢を追う北方悠誠の“球速以外”の魅力

Text:高村麻代

BCリーグは前期の日程を終え、東地区では常勝チームの群馬が、西地区では信濃が優勝を飾り、それぞれ9月に行われる地区チャンピオンシップへの出場を決めました。BCリーグでは前期の順位はここで全てリセットされ、後期のみの成績で改めて順位を争います。
つまり前期にいくつ黒星を重ねても後期に響くことはありません。どのチームにも、BCLチャンピオンシップ進出=リーグ優勝の可能性が残されています。

栃木ゴールデンブレーブスは、開幕3連勝の勢いは少々失速したものの勝ち星を重ね、前期は東地区(6チーム)で3位。過去2年の前期の成績は、ともに(当時は5チーム中)5位だっただけに、創部三年目にしてようやく上位争いに絡むことが出来ました。
寺内崇幸監督曰く「前期はある程度、選手を見るために色々試したが、後期は勝ちにいく」という。お試し期間が終了し、初のリーグ優勝を目指すチームとしても、NPBを目指す個々の選手たちにとっても、これからが勝負の3か月です。


北方悠誠投手がメジャーの道へ

そんな中、シーズン途中にチームを離れる選手がいます。ロサンゼルスドジャースとマイナー契約を結んだ北方悠誠投手です。
すでに各メディアで取り上げられ、野球ファンの注目を集めていますね。剛速球が持ち味の北方悠誠投手は、唐津商業高校からドラフト1位で横浜ベイスターズ(当時)へ入団。ピッチングフォームの改善などで、思うように投げることができないまま戦力外になり、育成選手として福岡ソフトバンクホークスへ。
ここでも実力を発揮することなく退団しました。
それからは、群馬、愛媛、長野と独立リーグの各チームを経て、去年11月に栃木へやってきました。穏やかで人当たりの良い北方投手は早々にチームになじみ、後輩からも「いじられキャラ」に。年末年始も地元に帰ることなく、仲間と切磋琢磨しながらトレーニングに励んでいました。

一時はかなり落ちていたという球速も年々復調し、シーズン前から「今年は160が出せる気がする」と話していたとおり、ストレートはコンスタントに150㌔後半を計測。かなりの手ごたえを感じていたようです。
ただ、NPB時代から課題として抱えていたコントロールは、まだ道半ばの状態で開幕を迎えました。
今季の目標は「1試合1四死球まで」で、中継ぎとしてワンポイントで登場する北方悠誠投手にとって、実質1イニング1四死球というのが自分に課した課題。
これに関して4月半ばに本人に聞いたところ「ギリギリなんとかなっている。ただ、(ストライクゾーンギリギリの)厳しいところに投げることばかり考えるとかえって崩れるので、大まかに思いっきり投げるとバットを振ってくれることが分かって、それからは少し楽になりました」と、吹っ切れた表情でした。

ちょうどその頃、ドジャースのスカウトマンが球場を訪れ、北方悠誠投手は、自己最速の161㌔をマーク。魅力ある逸材であることがすぐに本部に報告され、5月4日のゲームで再視察。北方投手は途中から降りだした雨の中での登板になりましたが、しっかりとアピールしました。この日のピッチングで、マイナー契約が決まったといいます。


再び輝く姿を見せたい

数日後、「独立リーグからメジャーへ」という見出しが各スポーツ紙を賑わせました。
一気に注目を集め、まるで一攫千金のアメリカンドリームのようですが、独立リーグでの1年1年の堅実な歩みが成果につながりました。
花の「ドラ1」から戦力外、育成選手、独立リーグ、契約終了…など、試練が度々あったにも関わらず、諦めることはありませんでした。
「投げ方がわからなくなった」という時期も、北方悠誠選手は自分自身のピッチングを信じていました。
「指先の感覚はずっと良かった。もっと腕が振れると自信があった。だから、いつかきちんと投げられると思っていた」。独立リーグでは、厳しい環境に気持ちが折れそうになったこともありましたが、すぐに野球が出来る喜びに変わりました。
そして、再びマウンドで輝く姿を家族やお世話になった方々に見せたいという一心で頑張ってきたのだと言います。

ドジャースからの誘いがあった時に最初に報告したのは、ご家族でした。
心はほぼ決まっていたけれど、どうすべきかと尋ねると「自分の人生だから悔いのないように」と背中を押してくれました。
また、ミネソタツインズで海外経験がある西岡剛選手からは「絶対に行け」と即答されたと言います。
それについて、後日西岡剛選手は「アメリカで野球をやることは決して楽なことじゃないが、彼の今後の人生に必ずプラスになる。野球を終えた後にも」と話してくれました。

また、5月30日に開かれた記者会見で、ロサンゼルスドジャース日本担当顧問(スカウト)の鈴木陽吾さんは、北方悠誠投手の獲得理由について「球速も魅力的だが、それだけではない。練習に対する態度なども知った上で、コントロールも改善していることなど、総合的に判断。心技体を評価した」と語りました。


この頃、北方悠誠投手が語ってくれたことの中で印象的だったのが、仲間への思いでした。
これまでのシーズンと何が一番違ったのかと聞くと「野球ができる環境。(BCリーグの選手はオフは収入が無く)みんなバイトをしているので練習相手と時間が合わなかった。栃木には常に練習できる環境、仲間、スタッフがいた」と、思う存分野球に集中できる環境に感謝の気持ちを口にしました。
その上で、「もしスカウトが自分を見に来ているとしても、一緒にプレーする選手たちも見てもらえることになる。チャンスに繋がる。一緒にアピールして、上のステージに行けたらいいと思う」。
栃木ゴールデンブレーブスの在籍は8カ月という短い期間でしたが、勝負の年と位置付けた2019シーズンに向けて、地味で苦しいオフのシーズンをともに乗り越えたブレーブスの仲間たちへの愛をひしひしと感じました。

悠誠さんのために打ちたかった

6月9日には、北方悠誠投手の壮行試合が行われ、ブレーブスのユニフォーム姿で始球式に登場。
仲間に見守られて、人生初の始球式を体験したあとは、ゲームを観戦。西岡剛選手が先制打となる2ランHRをライトスタンドへ。
逆転タイムリーを放った松井永吉選手が試合後に「悠誠さんのために絶対打ちたかった」と語ったとおり、いつも以上にチームは一丸となり、勝利で北方悠誠投手を送り出しました。


ビザの申請中は、状態を維持できるようブレーブスの練習場でトレーニングを続行。
マイナーリーグで使うボールを渡され、大きさや重さ、縫い目などの感触を確かめながら、投げていました。渡米後は、メディカルチェックやフォーム解析などを受けて課題をみつけ、試合をしながらレベルアップをしていくということです。ドジャース入団が決まってからも大きな心境の変化はなく、「自分のストレートが通用するのか、簡単にはじき返されるのか。これまで通り上を目指すだけ」という北方投手ですが、変わった点といえば、あご髭を蓄えたこと。
BCリーグ規定では髭が生えた状態はNGのため、ドジャースの会見後から整え始めたそうです。
アメリカ行きに向けてのイメチェンかと思いきや「楽だし、顎がとがっているんでそのほうが馴染むかな」とお茶目な笑顔でした。

取材の時は常に、一言一言ゆっくりと言葉を選びなら丁寧に応えてくれる北方悠誠投手。チームのメンバーはもちろん、球団スタッフ、メディアからも愛される選手です。’金色の勇者’として海を渡り、メジャーのマウンドに上がる北方投手の姿を楽しみにしています。


BCリーグはいよいよ夏戦線へ!

そして、チームは6月22日から後期がスタート。4連勝と好調な滑り出し。
北方悠誠投手の抜けたあとも、ブレーブスの投手陣の層は厚く、継投で逃げ切りました。さらに、オーストラリア代表も経験したジョン・ロバート・デール・ケネディ投手が合流。203センチの長身から繰り出す角度のあるストレートに期待が高まります。

ブレーブスが後期優勝するには、強力打線の群馬をどう抑えるのか、前期下位ながらも2勝5敗と負け越した埼玉からきっちり勝ち星を奪えるか、このあたりが見どころでしょうか。
夏場に向けて更に盛り上がる、BCリーガーたちの熱い戦いを見に来てください!

※写真は著者撮影

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