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バルセロナからIMGアカデミー、国際審判員まで。国際スポーツ組織でキャリアを築くには、何が必要か?

スポーツが世界の共通言語であれば、スポーツを舞台にしたビジネスキャリアも国内外共通だ。FCバルセロナ、MLSといったクラブ・リーグから、IMGアカデミーのような教育・トレーニング機関、そして国際審判員といったユニークなキャリアまで。世界を舞台に活躍するスポーツビジネス のキーパーソンたちが『HALF TIMEカンファレンス2021』に登場した。

バルセロナ、MLS、IMGアカデミーから国際審判員まで

スポーツ業界最高峰のカンファレンスシリーズ『HALF TIMEカンファレンス』。新型コロナの影響が続き、大きく様変わりするスポーツビジネスにおいて「コロナ禍のデジタル・トランスフォーメーション(DX) 」をテーマに、今年第一弾が5月12日と13日にオンラインで開催された。

1日目のセッションでは「世界的なスポーツ組織で働くというキャリアを考える」をテーマに、中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)、田丸尚稔氏(元IMGアカデミー・アジア地区代表)、家本政明氏(元国際審判員)が登場。

磯田裕介(HALF TIME株式会社代表取締役)をモデレーターに、『グローバルに活躍するキャリア』について熱い議論が展開された。

グローバルに働く「きっかけ」とは

スポーツ界で国際的なキャリアを築くことができるといっても、その「入り口」はどこにあり、どのようにその門をくぐったらいいのか?

「世界的なフットボールクラブで働きたい日本人はたくさんいるが、実際にそのようなキャリアを実現してきた人は、私が知る限り数十名だと思います。中村さんはなぜそのような機会を掴むことができたのか、お伺いできますか」

モデレーターの磯田はまず、中村氏に水を向けた。同氏は米マサチューセッツ州立大学のスポーツマネジメント修士を取得後、MLS国際部やFCバルセロナのアジア・北米担当を歴任するなど、グローバルに働いてきた経験を持つ。

「MLSで働いていた際に、プロモーターとして様々な国のチームを招待して、国際親善試合を開催する仕事をしていました。アメリカには様々な人種のファンの方がいる中で、開催地、参加クラブ、チケット価格などを策定し、年間30試合ほどの試合のマネジメントをしていました。

その後、MLSとFCバルセロナが5年間のパートナーシップ契約を結んだことから、バルセロナと一緒に仕事をする機会が増え、お声掛けをいただいたこともあり、バルセロナ国際部のアジア・北米担当として働くことになりました」

中村氏と同様に、海外でスポーツマネジメント修士を取得した田丸氏は、次のように語る。

「(当時)3ヶ月後に大学院に入学するという目標を設定してしまったので、英語の習得は自ずと短期決戦になりました。記憶の定着という意味では、短い時間に集中して学習したのが良かったと思っています。大学院入学後については、もともと仕事をする気はなかったのですが、研究の一貫として足繁くIMGアカデミーに通っていました。そのときに、彼らが偶然にもアジアマーケットに力を入れていたことがあり、ご縁とタイミングもあって現地で働くことになりました。

この経験を経て、一つ重要だと感じたことが、『動くこと』です。もともと仕事をする気はなかったとはいえ、往復10時間かけて何度もIMGアカデミーに通うという行動力が、このような結果に結びついたのかなと思います」

両氏とは異なり国際審判員として活躍してきた過去をもつ家本氏。しかし、縁とタイミングがキャリアを作ってきたことは同じだと語る。

「私はもともと二足のわらじを履いていまして、京都サンガFCでサッカークラブの経営に携わりながら、審判としても活動していました。ただ、次第にどちらかを選ばざるを得ない形となり、身体能力的に若い内にしかできない審判としての道を選びました。

審判をやると決めた後は、あまりこういう言葉を使いたくないですが、『死ぬ気』で努力しました。その甲斐あって、日本サッカー協会とプロ契約を結ぶとともに、国際審判員の枠をいただきました。僕のキャリアに関しても、本当にご縁とタイミングがあって、ここまで歩むことになりましたね」

文化や価値観の違いの中で戦う

グローバルで活躍するにあたり、多くの日本人に立ちはだかるのが、文化や価値観の違いである。中村氏も世界各国で働く中で、この課題を肌で感じていた。

「私は特に白黒はっきりした『ビジネス』のMLSと、ほぼ『宗教』とも言える熱狂的なFCバルセロナの人々の考え方の違いには衝撃を受けました。MLSではアメリカ人との価値観の違いを感じ、バルセロナでは体験したことのない熱量を感じた。

その中でむしろ日本人として、日本のサッカーを盛り上げたいという気持ちが強くなりましたね。海外に出てみて、改めて日本の良さを感じたのもあります。初めは海外に出て、その土地に染まろうとしていたのに、実際は海外に行ったのにむしろより日本を意識するようになった」

田丸氏もこれに肯く。

「まさしく中村さんが仰る通りで、私は日本に少なからず幻滅をしてスポーツビジネスを学ぶためにアメリカに行ったところもあるのですが、結果的に遠く離れたからこそ日本の良さに気づくことができました」

そして同氏は、異国の地で重要になる一つの考え方を示した。

「海外に出る中では、言語よりも文化の違いの方が大きいということを強く感じました。皆さんスポーツを愛していると思うので、スポーツは世界共通語であるという夢を持っていらっしゃる方も多い。確かに間違いではないけれども、一方で私が海外で最も重要だと思ったのは、『人々はわかりあえない』という前提を持つことでした。世界の約80カ国から人々が集まるという環境にいたこともありますが、『わかりあえない』中で如何にコミュニケーションを図り、自分を知ってもらうかという部分が重要だったんです」

家本氏は国際審判員という目線から、この「文化の違い」について付け加えた。

「日本には『和を以て貴しとなす』という言葉があるが、海外では全く異なります。また海外といえど南米とヨーロッパでは価値観は全く異なる。異なった価値観がぶつかり合うので、審判はそれに合わせて笛を吹かなければなりませんし、逆にそういうところがフットボールは本当に楽しいんです」

日本人がグローバルに活躍するために必要なこと

それでは、日本人がグローバルに活躍するには、本質的に何が必要か?家本氏は、世界中の試合をマネジメントしてきた中で得た持論を展開した。

「まずは、日本人に共通する特有の価値観を知ることが大事です。そして次に自分自身のパーソナリティを知る。その上で、相手の国はどのような文化、歴史、価値観を持つのかを知り、相手のパーソナリティを知るという4つのステップになります。そうすることで、その場に応じて自分の役割をコントロールできるでしょう」

これに対し田丸氏は一定の共感を示しつつ、あくまで基礎能力をつけることの重要性は変わらない点も付け加えた。

「私もアメリカで働く中で、自分は日本人であるということを認識する重要性を感じました。しかし一方で国際的なスポーツ組織で働くのであれば、世界基準の『出力』と言えばいいのか……地域性云々以前の最低限の力は必要になる。

スポーツでいえば、私はIMGアカデミーでテニスの錦織選手を見かけることがありました。彼は『フットワーク』『反応速度や精度』という、ある意味で日本人的な力が優れているのは間違いないと思います。しかし実際のトレーニングでは、海外選手に負けないように基礎体力や筋力のトレーニングを地道に行っていたんです。日本人特有の能力を活かすことは重要ですが、その前提として世界基準の実力を身につけることがそもそも重要なんです」

セッションは、次世代へのアドバイスともなった中村氏の言葉で締め括られた。

「日本人という枠組みを超えて、自分自身がこの場所でどういった『価値』を残せるかを考え続けることが、最も重要だと思います。とはいえ一度高いレベルを体感することも大切。実際に海外に出てみて、そのレベルを肌で感じることで、目標が明確になるのではないでしょうか」

初出=「HALF TIMEマガジン」
スポーツビジネス専門メディア「HALF TIMEマガジン」では、スポーツのビジネス・社会活動に関する独自のインタビュー、国内外の最新ニュース、識者のコラムをお届けしています。

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