スポーツにITを掛け合わせ、スポーツ業界の最先端を行く「スポーツテック」。スポーツの可能性を拡げるためにITで何ができるのか?その実際の仕事とは?ライブリッツ株式会社代表取締役の村澤清彰氏と、プロ野球チームを顧客にプロジェクトリーダーを務める牧岡清明氏、山田聖氏の3人に聞いた。(聞き手はHALF TIME編集長の山中雄介)
大きな注目を集めるスポーツ×IT
――スポーツ×ITが注目される中、この領域に特化するユニークな企業体であるライブリッツ。フューチャーグループ内で独立し、その設立から現在までを牽引するのが代表の村澤さんです。まずは社の歴史から教えていただけますか?
村澤清彰氏(以下、村澤):私は2001年にフューチャーアーキテクトに入社しまして、R&Dグループで研究開発をした後、大規模プロジェクトのプロジェクトリーダーを務めました。2012年にプロ野球団のITシステムを担当すると、2014年には福岡ソフトバンクホークス、2015年にも他球団と、プロ野球向けのITプロジェクトが増えてきたので、同社の中でスポーツ事業部を立ち上げました。その後事業も拡大し、よりスポーツに特化するため2017年4月にライブリッツ株式会社を立ち上げ、今年で4期目に入りました。
――これまでプロ野球とITはあまり結びつかないものだったかと思いますが、プロ野球団がITを使うようになったきっかけは何だったのでしょうか?
村澤:『マネーボール』(※2011年の米映画。野球に統計学的なデータ分析を用いたセイバーメトリクスが大きな注目を浴びた)がきっかけになったと思いますね。資金力のある球団が年俸の高い選手を獲得して勝つという伝統に対して、過去のデータを分析して埋もれている価値の高い選手を発掘し、知恵を武器にして優勝を目指すというストーリーです。
例えば、ある球団は、限られた年俸予算内でいかにして勝つかを目指していて、他の球団が見過ごしている良い選手を集めたいという狙いがありました。そこで、我々のシステムで力になれるのではないかということで事業を始めたんです。
また、別の球団では、たくさんの選手の特徴を適切に管理し効率的にチームを強化したいというのが狙いでした。このように、チーム毎に戦略は違うため、それぞれの戦略にあったシステムやデータが必要であり、今後もITの必要性はさらに大きくなっていくのではないかと感じています。
――村澤社長に引き続きお尋ねします。ライブリッツはチーム強化に向けたデータ収集・分析システムからスタートし、今ではファンクラブサイト運営やECなどの事業系システムも提供されています。社の強みやユニークさをどう評価されていますか?
村澤:ライブリッツの強みは、自社で開発もコンサルティングもできることですね。他社を見るとデータ分析は強いけど開発は外注をしている、あるいは開発はできるけどデータ分析については分からないというケースが多くあります。お客様に提案したシステムを自分たちの手で責任をもって開発し、運用までサポートし続けることがライブリッツの特徴です。
ユニークさとしては、データ分析のシステムを提供するだけでなく、マネタイズも含めて提案している点が挙げられます。データ分析をしてチーム強化を図るにも、まずはチーム運営でしっかりと収益を上げる必要があります。そのためにデータを使った魅力的なコンテンツの企画やECでの物販支援など私たちができることは何でも提案しています。これは、プロ野球ほど資金力がなく、IT投資に積極的になれなかった他スポーツへの提案がきっかけになりました。
チーム強化と事業拡大で、球団・クラブをトータルサポート
――次に社員である山田さんと牧岡さんにお聞きします。お二人はいわゆる「転職組」と伺いましたが、当時ライブリッツは外からどのように見えましたか?また、ライブリッツへの入社を決めた理由も教えてください。
山田聖氏(以下、山田) : 私は人事系のERPパッケージ会社に新卒で入社しまして、エンジニアとして開発や評価部門で勤めた後、パッケージの導入、保守運用のコンサルタントとして、大企業を相手に新製品の導入を6年ほど担当しました。
その後、転職するならスポーツに縁があればと考えていました。小さな会社だと小回りがきき、開発スキルも高めながらコンサルティング業務ができるので、自分の肌に合っているなと思いライブリッツに興味を持ちました。2019年2月に入社し、新規受注したプロ野球団プロジェクトの立ち上げメンバーとして、システム導入をメインに1年半ぐらい関わり、今はプロジェクトリーダーとして運用や改修に従事しています。
牧岡清明氏(以下、牧岡):私はこれまでウェブサービスの会社でエンジニアをしていまして、2016年に転職を考えた際、スポーツに特化した会社を探して、当時のフューチャーアーキテクトのスポーツ事業部門に応募しました。スポーツ業界に絞って転職活動をしていた当時は、企業規模が数名と非常に小さい企業や、開発のみという職種が多かったですね。それに、データ分析まで手を出している企業はまだ少なかったです。
その中でライブリッツに決めた理由は、ただシステムを開発するだけでなく、それをどう活用していくか、コンサルタントとして一貫してスポーツチームを支援できるからです。実際に読売ジャイアンツやソフトバンクというプロ野球団と契約していて、スポーツ業界に影響を与えられるのではないかと感じたことも決め手でした。
「ポテンシャルを感じる」 スポーツテックの現場とは
――牧岡さんと山田さんは、それぞれプロ野球のプロジェクトに従事されていると伺いました。実際の業務内容について教えていただけますか?
牧岡:読売ジャイアンツのECをメインに、アカデミー、ファンクラブ、来場者向けのサービスまで担当しています。2年前から始まったサービスで、改修や運用部分のプロジェクトリーダーを務めています。
読売ジャイアンツは熱心なファンが多く、大きなイベントがあるとシステムダウンを起こすほどのインパクトがあるので、いかにユーザーへのストレスを減らすかが課題です。またコロナ禍において、球場に足を運べないファンの方に対するサービスとして、ファンクラブサイトでのコミュニケーションやECでの記念品発売など、来場以外のサービスへの期待が高くなっています。
――先にお話の出た「事業系」システムということですね。山田さんはいかがですか。
山田:私もプロ野球団のプロジェクトを立ち上げから1年半ほど担当していて、主にチーム強化のためのシステムを提供しています。試合のデータはもちろん、1球単位でのスコアデータ、測定機械で計測される投球データをはじめ、球の回転数や回転方向、選手の身長体重、脈拍、コンディショニングなどですね。何のシステムもない状態からスタートし、チームからいただいた要望・要件を整理してシステムにどう反映できるかを考え、改修案を提案しています。
――今後伸ばしていきたい、或いは成長が目される事業はありますか?
村澤:自社サービスで新しい技術の研究開発を伸ばしていきたいですね。球団側の要望に応えるだけではなく、自社の技術を組み合わせて提案することで新たな付加価値を生み出せると考えています。例えば、メディアでも取り上げていただきましたが、試合結果や順位等をAI予想できる自社サービスを作っていますし、それ以外にも、海外で利用されているシステムを日本へ導入するための検証やより高度な解析技術などを自社で実現し、サービス開発に活かしています。
もう1つは、これも自社サービスですが、新しいファンエンゲージメントのあり方を作っていきたい。例えば、読売ジャイアンツの『トリプルヒーローゲーム』のように、試合前にヒーロー予想ができ、ファンを巻き込めるサービスです。
こういったサービスをマイナースポーツでもやっていきたいですね。現在受託しているプロ野球だけをマーケットに考えるのでなく、他のスポーツでもデータを活用して、集客支援やマネタイズ支援をしていきたいです。
牧岡:日本ではまだ、スポーツチームでシステムを使うとなると、「予算があれば…」と尻込みしてしまうチームも多いと感じています。予算に二桁くらい差のある欧米の事例を見てポテンシャルを感じるからこそ、非常にもったいないなと思います。
山田:当社で取り組んでいる研究開発やそれを活かした自社サービスなどを通して、新たな技術の可能性を追求していくことで、スポーツとITがどちらも発展できればいいですね。
変化を実感できる、刺激的な仕事
――スポーツテックは、まだまだ伸び盛りの領域とも言いえます。これまでの仕事で、どのような部分にやりがいを感じましたか。
山田:チームに勝ってもらうことも嬉しいですが、ニュース記事で「iPadで映像をみながら練習したり、相手を分析して戦略を立てた結果が勝利に繋がった」という選手や監督のコメントを見るとやりがいを感じます。私たちがご支援しているシステムやデータがチームの勝利に貢献できていることを実感できますね。システムやデータに慣れてもらい、理解してもらっているのがわかり、選手やチームの変化も感じられます。
牧岡:私はファンの方の反応をダイレクトに見られるのが楽しいですね。Twitterなどで調べると何に興味を持ってくれたかなどがすぐに分かりますし、ファンの方はデータを見るのが大好きなので、ファン向けにディープな野球データを提供するような工夫もしています。
――やりがいを共有する仲間も大事ですよね。御社の社員やカルチャーについても教えてください。
牧岡:メンバーは25~35歳くらいの若手がメインで、技術者が多いです。3〜4人でプロジェクトチームを構成しているので、スピード感が重視されます。お客さんもIT専任ではないので、柔軟に対応できるフットワークも大事ですね。カルチャーという面では、やはり野球好きなメンバーは多いですね。かなりマニアックな部分まで踏み込んでいる人もいますね(笑)。
村澤:普段の会話でも「昨日は〇〇が勝ったね」とか、共通の話題があるのはいいよね。
山田:そうですね。プロジェクトメンバーは、たとえそのチームのファンでなくても、みんな球団に対して熱い想いを持っていると思います。だからこそ試合の勝敗は気になりますし、応援したくもなりますよね。それにプロ野球の試合は毎日行われますし、データも試合毎にどんどん溜まっていくので、そこを自ら積極的にウォッチしているメンバーも多いです。
――メンバーについてのお話が出ましたが、こんな方にぜひ入社して欲しいという基準はありますか?
村澤:重視したいのは開発力です。ライブリッツは技術力を強みとしている会社なので、やはりそこに自信を持っている方や、優秀なエンジニアの中で自身を磨きたいと思っている方とぜひ一緒にお仕事をしたいですね。あるいは自ら開発せずとも自分自身でこんなものを作りたい、こんな事業をやってみたいという想いを持っている方がいいですね。パーソナリティでは、山田も言うように、積極的に動ける人。まだ課題が明確化されていない、もしくは課題に気づいていないお客様にも提案ができるか。自分がチームのフロントだったら、トレーナーだったら、という立場でシステムを企画できる人は、球団もウェルカムだと思います。
牧岡:どうすればできるかを考えられる前向さも大事ですね。こんなことやりたいという難しいご要望をいただいた時、できませんから入ると、どうしても話が進まないので。
山田:お客様からは、様々な質問や時には難しい要望もいただきます。それを安易に「できない」と諦めるのではなく、自分なりに調べたり、考えたり、行動できる方がいいですよね。あとはせっかく自分が好きなスポーツに携わっているので、それを楽しめる方。もちろん大変なこともありますが(笑)、ポジティブに楽しみながら働ける人がいいですね。
――ライブリッツでは求人のボジションもオープンです。興味のある方に一言、メッセージをいただけますか。
牧岡:実際にプロスポーツチームと関わることができて、そのノウハウやビックデータを持っている会社は多くないと思います。コンサルティングだけでなく、開発もやっているので、チームに深く関わることができます。スポーツが好きな方はぜひ来てほしいなと思います。
山田:和気あいあいとやっているので、スポーツが好きじゃなくても意外と楽しんでいただける環境だと思いますよ(笑)。スポーツという業界は、現場とエンドユーザーが近いので常にユーザーの反応を身近に感じられます。だからこそ、刺激的な職場で働きたいというエンジニア、コンサルタントの方には面白いと思っていただけるはずです!
村澤:ライブリッツのチーム強化・事業強化のシステムは、基幹系システムのように誰がどう使っているか分からない複雑なものとは違い、とても分かりやすいと思います。ファンクラブのような事業系システムはSNSでファンの反応がダイレクトに見れますし、強化系システムも選手やコーチ陣が毎日使ってくれています。自分が作ったものが使われているというのが目に見えて分かるので、「幸せ」を感じられると思いますね。
スポーツチームをトータルでサポートし、今後は自社サービス開発にも力を入れるというライブリッツ。これからのスポーツ界で一層重要な存在となっていくであろうスポーツテック企業で、自分の興味関心とこれまでのキャリア・スキルを活かして働くことは、なんとも魅力的ではないだろうか。
初出=「HALF TIMEマガジン」20年8月31日掲載
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公開日:2021.05.27