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【WEリーグ岡島チェアに聞く】 クラブ運営モデルからセカンドキャリア、そして意識改革まで。WEリーグが拓く女性アスリートの可能性。

9月12日、WEリーグが開幕した。日本初の女子プロサッカーリーグはファン獲得を意欲的に進めながら、多様性の確保や女性の社会進出などの独自の価値を提示。スポンサー企業も続々と決定している。WEリーグは何を目指し、どのようなビジネスモデルと社会活動に注力していくのか。岡島喜久子チェアが語り尽くした。後編(取材・文=田邊雅之)

新リーグとして「価値」を提示していく

――先日も発表がありましたが、WEリーグはDAZNと放映契約を結んだり、最近もYogibo(自由に形を変えられるクッション)を販売しているウェブシャークとタイトルパートナー契約を結んだりするなど、スポンサーの獲得に関しては非常に順調だとお聞きしています。理由はどこにあるとお考えですか?

タイトルパートナーのウェブシャークさんは、心と体を包み込むクッション「Yogibo」を展開し、ご家庭だけでなく、様々な場所で心地よい環境づくりを推進されています。WEリーグでも、多様性にあふれた社会の縮図となるようなスタジアムづくりやコミュニティを目指していますから、まさに互いの理念やビジョンが合致したと感じています。

そして、お弁当チェーン「ほっともっと」などを展開されているプレナスさんや、自動車メーカーのダイハツさんは、昔から長年、女子サッカーを一生懸命に応援してくださっていた企業なんですね。こういう企業に加えて、今回は全く新しいスポンサー、例えば旭化成ホームプロダクツさんやメディキュットさんのような企業にも支援していただけることになった。

私たちの根幹にあるのは、WEリーグをプラットフォームにして、選手たちやクラブ、多様なパートナー企業とともに皆で社会課題に取り組んでいくというコンセプトです。これまでの看板露出だけではない、新たなパートナーシップの在り方が具体化し始めたと言っていいと思います。

――WEリーグのビジョンは、時代の流れや企業側のニーズに合致していたと。

WEリーグは日本初の女子プロサッカーリーグということで、やはり新しいイメージを提示していかなければならない。結果、私たちは女性の活躍や社会進出、多様性への対応という「価値」の部分を前面に提示していったんですね。私たちが運営するのはスポーツのリーグですが、大きな社会的意義も担っていますから、そこに共感していただけたと思っています。

――女性の社会進出や多様性への対応以外に、WEリーグ全体として、追求していきたいと思われている要素などはおありですか?

女子サッカー選手が現役を引退した後の、セカンドキャリアの道筋をしっかり作っていきたいという気持ちは強いですね。まず指導者としてのキャリアに関していえば、現役時代にC級ライセンスを全員に取得してもらう。こうしておけば、引退後にすぐにB級、A級と進みやすくなりますから。しかも現在は、女性指導者の育成に関してFIFAがすごく力を入れていて、アジア各国に補助金を支給することを決定したんですね。

――日本にとって追い風が吹いていますね。

アジアの場合は、もともと女性指導者が少ないんです。文化的や宗教的な理由で、女性指導者でないと親御さんが安心して娘さんを預けられないと感じる国もある。だからこそFIFAも支援を行っているわけですが、当然、指導者の育成にも時間がかかる。そこでアジアの中でサッカー先進国である日本の指導者、特に女性の指導者に今、すごく要請が来ているんですね。指導者としてのセカンドキャリアを充実させていくことは、こういう流れにも沿っていると思います。

指導者、スタッフ、経営者…引退後の道筋も用意

女性が「社会の中で輝けるチャンスを作っていく」と述べる岡島チェア。自身もサッカー選手としてプレーしていた。

――おっしゃっていることはよくわかります。私は昨年、岡部恭英さん(Jリーグアドバイザー)と小山恵さん(Jリーグ グローバルカンパニー部門)の対談をナビゲートさせていただきましたが、その際にも指導者派遣の話題が出ました。アジアへの指導者派遣は、日本人選手のセカンドキャリア確保につながるだけでなく、アジア全域の女子サッカーそのものの地位や人気を挙げていくことにもつながります。

実際、日本サッカー協会でもアジア貢献事業というプロジェクトを推進していますから。指導者の派遣や選手の獲得などを通して、アジア全体のレベルを上げていけば、ヨーロッパと同じように近隣諸国と戦うことで切磋琢磨できるようになる。

また選手側にしてみても、やはり海外で2年でも3年でも経験を積むことは、指導者としてだけでなく、社会人としても非常に意義ある経験になるんです。私たちとしては、是非そういう道筋を作っていきたいですね。

それと同時に、WEリーグでは現役を引退した選手が、クラブのフロントスタッフや経営陣として働いていけるような環境も実現していきたい。だからクラブの参入基準にスタッフの50%が女性であること、意思決定者の中に女性を1人加えなければならないという基準を設けたんです。

――これまでの日本では、女子のチームもやはり男性中心で運営されてきました。そういう状況を変えていく上でも、非常に有効な手段になりますね。

WEリーグに11クラブが所属していますが、その中の7クラブはJリーグ(男子)のチームを持っているんですね。そういうクラブは男性によって運営されてきましたし、特にコーチ陣や意思決定者には、男性しかいなかった。もともと日本の社会や組織は、上から指示が出ないとあまり変わっていかないので、WEリーグのように「クオータ制(人数や比率を定める方法)」を導入することはある程度、日本に必要なものだと思っています。

――サッカーの分野でセカンドキャリアを築いていくのは同じでも、指導者ではない道も確保していこうと。

例えばチームのスポンサー企業で、現役時代から少しずつ経験を積む。あるいは経団連などと連携しながら、一般企業でインターンとして仕事を経験して、指導者以外の道も探していけるようにする。そういう環境が実現できるように、私の方では様々な方々とお話をさせていただいてるという感じですね。

やはり私たちとしては、自分もWEリーガーになりたい、プロの女子サッカー選手になってみたいと憧れるような女の子たちを増やしていきたい。そのためにも、現役を引退した後の筋道まで、しっかり考えられるような環境を整備していかなければならないと思うんです。

現役選手でも「こんなに自信がないのか」

――私はバスケットボールの元日本代表だった渡邉拓馬さんともお話をさせていただくのですが、渡邉さんも競技人口を増やし、競技力を高め、バスケット界を盛り上げていくために重要なのは、実は受け皿作りだと強調されていました。そこが整備されていなければ、プロを目指すこと自体が難しくなりますから。

女子は特にそうなんです。男子選手は解説者になったり指導者になったりするケースは多いと思うんですね。でも女子はそういう枠自体が少ないし、一般的な仕事も見つかりにくいので、すごく不安なところがあるんです。

もともと女子の選手は、現役時代から男子選手とずっと比べられますし、セカンドキャリアに関しても枠が少ないので、自信を持ちにくい。

私は今回、様々な選手からヒアリングを行いましたが、日本代表として活躍したようなレベルの選手でさえ、現役引退後のキャリアについて不安を持っていた。正直、こんなに自信がないのかと驚いたぐらいです。

――チェアご自身は大学卒業後に銀行に就職され、その後、アメリカでも順調にキャリアを重ねてこられました。それだけに、女子サッカー選手が置かれた現状に衝撃を受けられた。

私は最終的にメリルリンチに勤務していたんですが、ちょうどその頃、メキシコ五輪の50周年記念パーティーに招待されたんですね。そこで金田喜稔さんと名刺交換をさせていただいたのをきっかけに、Jリーグの村井満チェアマンやJFA女子委員長の今井純子さんなどともご縁をいただき、WEリーグのチェアを務めることにもなったんですが、やはり現役選手の話を聞いているうちに、あまりにも彼女たちが報われない、これはなんとかしなければならないと強く思うようになって。

だから今は選手の研修やセミナー、ミーティングにもすごく力を入れています。各クラブの関係者とも、定期的に話し合いを行っています。

――選手とは具体的にどんなお話をされるのですか?

セカンドキャリアの重要性はもちろんですが、アメリカやヨーロッパの女子サッカーの現状、日本の女子サッカーがどうやって発展してきたのかという歴史なども伝えるようにしています。

それと選手に対しては、やはり一人一人がファンを作ってほしい、積極的に自分の情報をSNSで発信する努力をしてほしいということは伝えていますね。選手個人レベルでファンが増えていけば、チームやリーグ全体のファンも増えていくことにつながりますから。

――ここまでの手応えはいかがでしょう。

SNSを見ると、結構、増えていると思いますね。情報を発信する機会も増えていますし、今までやらなかったことをするようになってきた。

ただし海外の選手、特にヨーロッパやアメリカの選手に比べると、日本の選手はサッカーのことだけを呟いている選手が多い印象です。社会のことや私生活のこと、興味があることなど自分のことをどんどん発信できるようにしていきたいですね。だからWEリーグでは、情報発信に関してもクラブを横につなぎながら選手たちを集めて、いろいろな活動をしていく企画を考えています。

女性が自信を持ち、輝ける社会に

――ただし日本のスポーツ界では、アスリートは競技にのみ専念すべきであって、情報発信やプロモーション、メディア対応などはすべきではないという考え方が根強かったのも事実です。ましてや女性アスリートの方は生真面目な方が多い。その意識の部分を変えていくというのは、非常に大きなチャレンジですね。

そうです。そこは本当にすごく丁寧にやっていく必要がありますね。新しい道を切り拓いていくためには、ある程度、自信を持っていなければならないし、自信を持つためには、自分のことを考え、これまでを振り返って良かったところを見つけていかなければなりませんから。でも、そういう作業をしていくことが大切なんです。

――セカンドキャリアの筋道作りや、女性の意見を反映するためのクオータ制の導入、そして意識改革に至るまで。WEリーグはスポーツの分野において日本社会に変革をもたらし、活性化していくためのフロントランナーになる可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。

ええ。NWSLのワシントン・スピリットというチームは、共同オーナーの中にビル・クリントン元大統領とジョージ・W・ブッシュ元大統領の娘さんが名を連ねていたりする。つまりそれは、女子サッカーという競技やクラブチームが、社会的な価値の点でも一つの事業としても、それだけ高く評価されているということなんですね。

WEリーグはこれからスタートしますが、やはり有意義なことをたくさん仕掛けていきたいです。それは女子選手たちの努力が報われることにもつながるし、彼女たちが社会の中でもっと輝けるようなチャンスを創り出していくということにも、つながると思うんです。

書き手:田邊 雅之
学生時代から『Number』をはじめとして様々な雑誌・書籍でフリーランスライターとして活動を始めた後、2000年から同誌編集部に所属。ライター、翻訳家、編集者として多数の記事を手掛ける。W杯南アフリカ大会の後に再びフリーランスとして独立。スポーツを中心に、執筆・編集活動を行う。

初出=「HALF TIMEマガジン」
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