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もはや「コロナ後」の欧州サッカー界。WFSで語られた「新たなスタンダード」とは

新型コロナがスポーツに大きく影響を及ぼしたこの1年半。ワクチン接種も進み世界各国ではスポーツ競技、観戦が徐々に元に戻ろうとしている。そんな中、サッカー業界のグローバルカンファレンス「ワールドフットボールサミット」も2年ぶりにオフラインで開催。スペインでの開催を、現地在住の渡邉宗季氏にレポートしてもらった。(取材・文=渡邉宗季)

「脱コロナへ」ではなく、「すでにコロナ後」の欧州

新型コロナの影響でワールドフットボールサミット(World Football Summit:WFS)はスペイン・マドリードで2年ぶりの開催となった。私自身も2年ぶり2度目の参加になる。2年前に比べて欧州外、特にアジアからの参加者やアジアに関するセッションは目立って減ったものの、1,400人を超える有人のイベントが無事行われたのは、現地在住者としても喜ばしい。ちなみにイベント参加には72時間以内に新型コロナの抗体検査を実施することが必須。当日会場でも可能だった。

欧州サッカーは、今年6月のEURO2020でも観客を入れて開催された。ハンガリーの5万人を超える満員のスタジアムでの試合を目にした方も多いかもしれない。この夏から始まった今シーズン、各国主要リーグでも制限付きとはいえ観客を入れ始めており、スペインでは10月から観客動員100%の許可も降りた。

私の住むバルセロナでも欧州からの観光客が戻り、バルでの飲食や友人たちとの集いも可能だ。スペインはワクチン接種も進み、2回接種済の人々は人口の78%にも迫る。そういう中で生活していると、コロナ禍という現実はどこか過去のもののように感じてしまう。

欧州のサッカークラブを代表する組織ヨーロピアン・リーグス(European Leagues)のマネージング・ディレクターであるヤコ・スワルド(Jacco Swart)氏は、WFSの壇上、「今はコロナ禍からもう抜け出している」と述べていた。他の登壇者の発言からも、欧州サッカー界はもはや「コロナ後」という意識で動いていると実感させられた。

では、そのコロナ後のサッカー界はどうなるのか?参加したセッションの登壇者たちの言葉から読み解くと、① 経営の効率化、② Z世代の取り込みの2点がカギになってくるようだ。

複数クラブのオーナーシップが加速

デンマーク1部FCヘルシンゲルのアメリカ人オーナー ジョーダン・ガードナー(Jordan Gardner)氏は、「今後4〜5年はクラブ・コングロマリット(マルチクラブ・オーナーシップ:MCOともいう)が増えるだろう」と予測する。MCOの形態を取る企業としては、マンチェスター・シティFCのCity Football Group(CFG)やRBライプツィヒのレッドブルが有名だ。

企業や個人が複数のクラブチームを保有するMCOという形態では、クラブは経営やマネジメントのノウハウ、資本を得られるだけでなく、同系列クラブ間で戦術やデータを共有し、チームに合う選手移籍も実現できる。経営面のメリットだけでなく、競技成績の向上も図れるというわけだ。実際、上記2クラブの欧州大会での成績は周知の通り。日本でもCFGが横浜F・マリノスの経営に入っている。

5大リーグだけでなく、デンマーク、ベルギー、オーストリアや欧州2部リーグ、またアメリカや南米などのクラブで選手を発掘、成長させ、その選手たちを主となるクラブに送るというスキームは、非常に効率的だ。

クラブのオーナーシップを巡っては、投資マネーの存在も大きい。今夏は、財政難のバルセロナが米投資銀行ゴールドマン・サックスから690億円の融資を受けたというニュースが世間を賑わせた。近年欧州サッカー界に進出が目立つ米系PEファンドや個人投資家の動向にも注目が集まる。上述のジョーダン・ガードナー氏はデンマークの他にアイルランドリーグ1部ダンドークFC、イングランド2部スウォンジー・シティ(ウェールズ)にも出資している。

アメリカ人のポール・コンウェイ(Paul Conway)氏がオーナーを務めるパシフィック・メディア・グループ(Pacific Media Group:PMG)も勢いがある。PMGは2017年以降約4年間で、イングランド2部バーンズリー、ベルギー1部KVオーステンデ、フランス2部ナンシー、スイス2部FCトゥーン、そしてデンマーク1部エスビャウの5クラブを買収している。

当然ながらクラブは投資対象のため、投資家たちはビジネスとして成功させるために堅実な戦略を取る。パンデミックでダメージを受けた欧州クラブが資本力のある企業・個人の手を借りて存続したいという思惑と、資本力のある海外の企業・個人が欧州のクラブを安く買いたいという思惑が重なり、今後もMCOのスキームが加速するだろう。

Z世代の取り込みと、重要になるストーリー体験

会場となったアトレティコ・マドリードの本拠地、ワンダ・メトロポリターノ・スタジアム

デジタルネイティブであるZ世代の取り込みは、サッカー界だけでなく、スポーツ・エンタメ界に共通する課題だ。コロナ前はFCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」やレアル・マドリードの「サンティアゴ・ベルナベウ」などに見られるスタジアム改修、そして、スマートスタジアムへの進化が注目トピックだった。

しかし、コロナ禍ではスタジアムに足を運ぶことが難しくなり、その結果、よりライトなファンや新規ファンの存在に目が向けられることとなった。トークンを用いた新しいファンエンゲージメントを提供するChiliz及び Socios.comのCEO アレクサンドレ・ドレイフス(Alexandre Dreyfus)氏は、「新型コロナによって、スタジアムやフットボールコミュニティの外にいるファンを認めざるを得なくなった」と言及。NetflixやAmazonプライムを通してクラブのドキュメンタリーが新たなファンに届き、また、バルサTVのような独自のOTTを展開する動きも目立っている。

ライトファン、新規ファンを創造していくには、何より接点(タッチポイント)づくりと、そこで「何を語るか」というストーリーが欠かせない。スポンサー企業もそれを意識して取り組むことが必要だと説くのは、Sport by Fort Consulting創業者で元コカ・コーラ幹部のリカルド・フォート(Ricardo Fort)氏だ。新たなファン、顧客を獲得するためには、今日ではSDGsに沿ったストーリー作りを通し、スポーツが生活の一部にならなければならないともいう。

同氏は古巣であるコカ・コーラを一例として挙げた。コカ・コーラは英プレミアリーグと2019年から3年半の大型契約を結び、その第一弾企画として「Where Everyone Plays」キャンペーンを実施した。健康志向の企業ブランドであることを新たに浸透させるためにプロモーション動画を制作し、クラブスタッフから全プレミアリーグ20クラブのファン、そして現役選手のジェシー・リンガードやOB選手が出演。全てのサッカーファンが「日常のスター選手である」というストーリーで、ダイエットコーラとコーラゼロシュガーのプロモーションを図った。

フォート氏は既にコカ・コーラを去っているが、SDGsの観点では同社がプラスチック削減を目指す社会にどう対応していくのかには、非常に高い関心を持っているとも述べた。また、消費者との接点とストーリーが重要だとすれば、今後は大会や協会ではなく、消費者に近いアスリート自体との契約が増えるとも推測した。

例えば、EURO2020の記者会見でクリスティアーノ・ロナウドが卓上のコカ・コーラを下げて大きな論争を呼んだのは、一選手の影響力の高まりを示している。スポーツブランドだけではなく、他業界においてもトップ選手や優良若手選手との契約競争が激化しそうだが、ひとえにそれは企業のストーリーを代弁してくれる可能性があるからだ。

新たなスタンダードと共にコロナ後を進む

普段から欧州サッカーを中心にスポーツビジネスを追いかけていると、正直これらの取組みは「目から鱗」というわけではない。スマートスタジアムやブロックチェーンを用いたファンエンゲージメント、OTTやストーリー作りなどは、決して目新しいとはいえないだろう。一方で、逆に言えば今回の発見は、1〜2年前には「おっ」と目を引いた取り組みが、既にスタンダードとなっていたことだ。

パンデミックが世界を襲って1年半を過ぎ、破産するクラブ、スター選手の流出が続くリーグ、フォーマットを大きく変更した国際大会などが露見。欧州サッカー界は変化を受け入れざるを得ない状況になった。各国ではだんだんと以前の生活に戻りつつあるが、まだ制限も残り、100%コロナ前の状態に戻ったかといえばそうではない。

しかし、コロナ禍からどのように脱するかではなく、新たなスタンダードと共にコロナ後をどのように進んでいくか。欧州サッカー界はこの1年半で様々な試みを実行し、大きな進化を遂げた。そして今、既にコロナ後の世界をしっかりと歩み始めている。

執筆:渡邉 宗季
2019年からバルセロナ在住。Johan Cruyff InstituteでFCバルセロナと提携したフットボールMBAコースを修了、またCENAFE Escuelaにてスペインサッカーコーチングライセンスレベル1取得。その後フリーで活動。教育からフットボールの発展を目指す「New Vida(にゅーびだ)」代表。サッカー文化を広げるためのGlobal Community「CINK Football Square」講師兼運営。

初出=「HALF TIMEマガジン」10月8日掲載
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