一流選手は一体どんな思考でトレーニングしているのか?進化するプロ野球を探る
一流のプロ野球選手たちは一体どんなトレーニングを行っているのか?数多くのプロ野球選手を指導する「野球パフォーマンスアップスペシャリスト」高島誠氏の取り組みから、球界の最新トレンドを探る!
ラオウ・杉本裕太郎覚醒の理由は、「スイングデザイン」
もともとサイ・ヤング賞投手であるトレバー・バウアー(ロサンゼルス・ドジャース)が使い始めた「ピッチデザイン」という言葉は近年広がりつつある一方、高島トレーナーは打撃版として「スイングデザイン」も行っている。そうして飛躍したのがオリックスの杉本裕太郎だ。
大学、社会人を経て2015年ドラフト10位でオリックスに入団した杉本裕太郎は長距離砲として期待された反面、打率の低さが課題だった。当たれば一発があるが、確率が低くて出場機会をなかなか得られない。元阪神の右腕投手、高野圭佑の紹介で2018年オフに門をたたいた杉本裕太郎に高島トレーナーが最初に行ったのは、何ができて、何ができないかの判別だった。
「基本的には外のスライダーを見極めることが最初の課題でした。体をひねって打つからバットが出づらくなり、軌道も外回りになる。それでインコースに対応できないから気にしすぎて、外角が見極められなくなっていました」一因が胸郭の硬さだった。上半身がスムーズに回転しにくいため打撃動作で間をとれず、頭がブレやすくなる。
この点も外に逃げていくスライダーを見極められない原因で、トレーニングで柔軟性を高めた。同年に2軍の成績で改善が見られると、2020年に向けて行ったのが打球角度の再考だ。杉本裕太郎は長打を求め、打球に角度をつけようとしていた。近年、テクノロジーの導入で明らかになったのが「バレルゾーン」だ。
打球速度158キロ以上なら26~30度、187キロ以上なら8~50度で発射された打球が長打になりやすいというデータが割り出されている。カギは打球速度で、ボールをバットでしっかり捉えることが前提になる。柳田悠岐(ソフトバンク)や吉田正尚(オリックス)はハードヒット率が高いと同時に、外野の前に落としてポテンヒットにする技術も高いから高打率を残せている。フィールドの中で最もヒットになりやすい場所は内野と外野の間で、杉本裕太郎は打球角度を15度程度に下げてここを狙えるようなスイングに変えた。
結果、2020年は41試合で打率2割6分8厘と自身最高の成績を残した。翌年に向けて2020年オフに行ったのが、内角への対応を高めることだった。骨盤が外に向いたままインコースを打ちにいこうとする癖があり、力の伝達を高めることが長打を増やすためには不可欠だった。そこで使用したのがコアベロシティーベルトという、伸縮性のあるチューブの器具だ。体の動かし方を感覚的に覚えやすいのが特徴で、最初にメジャーリーグで広まり、外国人選手が日本に持ってきてプロ野球でも使われ始めた。高島トレーナーは現地から輸入し、杉本裕太郎の課題克服にも使用した。
こうした「スイングデザイン」というアプローチが実った結果、杉本裕太郎は30歳になった2021年、ライトのレギュラーをつかんで134試合に出場、リーグ3位の打率・301、そして32 本塁打で同タイトルを獲得した。二人三脚で飛躍を果たした高島トレーナーは杉本裕太郎の成長を踏まえ、選手各自に合った「最適解」を求める必要性を改めて感じている。
「自分はどういう打ち方をすれば、持ち味をより発揮して成績を上げていけるか。そう考えて取り組むことが大事です。投手も同じことですね。テクノロジーで見えてきた情報を踏まえてトレーニングをすれば、より効果的にレベルアップを図れます。闇雲に量をこなすのでは努力が報われない場合もあるので、きちんと道筋を踏んでいくことがいつか自分の理想にたどり着くために重要です」
令和の現在は情報があふれているからこそ、どんなアプローチをとるかが成否の分かれ目になりやすい。何を信頼し、どこから刺激を得て自分を成長させていくのか。球界最高峰のプロ野球で頂点に上り詰める者たちは、スポットライトから離れたオフの期間、合理的に努力を重ねながら翌シーズンへの力を黙々と蓄えている。
出典:『がっつり! プロ野球(33)』
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公開日:2023.01.24