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野球に“鍋つかみ” 「世界の福本」直言【二宮清純コラム スポーツの嵐】

Text:二宮清純

巨人が全選手に“鍋つかみ”の着用を義務

パッと見たら“鍋つかみ”に見える。本物の“鍋つかみ”は耐熱材が用いられているため、熱い鍋をつかんでもヤケドをしないですむ。

しかし、こちらの“鍋つかみ”は形状がそっくりなだけで素材は全く異なる。

スポニチ紙によると<手の平と甲の両面に軽量プレートが内蔵され、指先は衝撃吸収素材が使用されている>(5月18日付)のだそうだ。ちなみに正式名称は「スライディングミット」だ。

巨人は5月12日の横浜DeNA戦以降、全選手に“鍋つかみ”の着用を義務付けている。

そのきっかけは、9日、東京ヤクルト戦での坂本勇人のケガ。キャッチャーからの牽制の際、手から一塁に帰塁して右手の親指を骨折した。

首位・阪神を追う(6月2日時点で4ゲーム差)巨人にとって攻守の要である坂本の負傷離脱は痛いなんてもんじゃない。右手親指は投げるにしても打つにしても最も負荷のかかる部位。復帰までには時間がかかりそうだ。

「手からの帰塁、ヘッドスライディングは厳禁!」

かつて選手たちに、口が酸っぱくなるほど注意していたレジェンドがいる。オリックスや阪神でコーチを務めた通算1065盗塁の福本豊だ。以前、こう語っていた。

「僕はヘッドスライディングはやりませんでした。1回やった時、首にガンと衝撃が走ったんです。それから“ヘッドスライディングは絶対にやるまい”と心に決めました。牽制されても、頭ではなく足から帰っていました。

昔は頭から一塁に戻ると、バンとミットで頭や首の部分を叩くファーストがいた。あれをやられると痛いし、ケガにつながる。手も危ない。その点、足から戻ればケガする確率は低い。防げるケガは前もって防ぐのがプロやと思うんです」

福本は盗塁の「世界記録」の他に、13年連続盗塁王という勲章も持っている。「無事是名馬」を地で行く選手だった。

さらに福本は続けた。

「少年野球でもヘッドスライディングをやらせる指導者が少なくない。“いっぺん、自分でやってみてや。首が痛うなりますよ。その怖さを体験してください”と言うてるんです。子供がケガしたら一生が台無しになりますよ」

言われてみれば、その通り。しかし、未だに現場には「気迫が前面に出ている」「闘志あふれるプレー」と称賛する声が少なくない。

要は“鍋つかみ”を必要とするようなプレーそのものに問題があるのだ。

初出=週刊漫画ゴラク2021年5月28日発売号