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バッハ氏の狙いは ノーベル平和賞?【二宮清純コラム スポーツの嵐】

Text:二宮清純

バッハ会長の野心家ぶり

<「天皇に会わせろ」
 バッハよ、何様だ>

「週刊文春」6月3日号の見出しである。

 記事によると、立ち消えになったもののIOCトーマス・バッハ会長が5月中旬に来日した際、東京五輪の名誉総裁も兼ねる天皇陛下に拝謁する予定だったというのだ。

 緊急事態宣言の発令を受け、バッハ会長の来日は7月中旬に延期されたが、<そこで改めて官邸に天皇との謁見を要求しているのだ>(同前)。

 こうしたバッハ会長の野心家ぶりは今に始まったことではない。

 2019年6月、大阪で行われたG20サミットに、自ら売り込んで出席したことは、前組織委員会会長・森喜朗氏の証言からも明らかだ。

 出席こそ認めたものの、演説の予定稿を見て森氏は青ざめる。「東京五輪における南北(韓国と北朝鮮)の統一行進」という文言が入っていたからだ。

 交渉はIOCが本部を置くスイス・ローザンヌに移して行われ、「北朝鮮に対する日本人の感情会は複雑だ。拉致のことを知っているだろう。あなたのスピーチを読むと北朝鮮を礼賛するような言葉も入っている。これは日本の政治家として到底、容認することができない」と詰め寄る森氏に対し、バッハ会長は「拉致のことは知っているが、私はドイツ人として分断国家の苦しみもわかるんだ」と応じたという。

 結局、ジョン・コーツ副会長の取りなしにより、南北のくだりは削除されたが、森氏には「バッハさんにはノーベル賞を狙っているウワサがあるが、その気があるのかな……」と疑念が生じたという。

 別に誰がノーベル平和賞を狙おうが知ったことではない。しかし、政治的中立性が求められるIOCのトップの姿勢としては疑問が残る。

 かつてノーベル平和賞候補に挙げられたIOC会長といえば、“近代オリンピックの父”と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン男爵が有名だが、IOC本部の落成式では「(新本部は)クーベルタン氏が掲げたIOCの使命や価値観を反映している。彼の思いを未来に引き継げることを誇りに思う」と話している。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平国家主席など専制君主的な政治家と距離が近いのも気になる。

 18年平昌冬季五輪後は北朝鮮に飛び、金正恩委員長とアイスホッケー女子南北合同チームの成果を称え合ったとも言われる。やはりノーベル平和賞狙いか……。

初出=週刊漫画ゴラク2021年6月4日発売号