オッズ井上1.05倍
こういう言い方も変だが、強いにも程がある。モンスターどころかスーパーモンスターだ。
昨年12月26日、東京・有明アリーナ。WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥は、WBA&IBF同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)に10回1分2秒KO勝ちし、史上2人目の2階級4団体統一を世界最速の5年7カ月で達成した。
試合前から、井上の圧勝が予想された。英国の大手ブックメーカー「ウィリアムヒル」のオッズは、井上1・05倍、タパレス10倍、ドロー23倍。ともに2団体王者ながら、評価は月とスッポンだった。
ここまでのレコードは井上が25勝(22KO)無敗であるのに対し、タパレスは37勝(19KO)3敗。井上が天下無双なら、タパレスは挫折を肥やしにしながら2団体王者に駆け上がった。
ニックネームは「ナイトメア」。19年12月にIBF暫定王座決定戦で対戦し、11回TKO勝ちした岩佐亮佑は「引き込まれるような怖さがある」と語っていた。
試合は序盤から井上ペースで進んだ。サウスポーのタパレスは半身で構え、しかも後ろ重心。右ひじをL字型に折ってディフェンスを固める。カウンター狙いの典型的なリアクションボクシングだが、こうでもしなければ活路は見出せないと判断したのだろう。逆に言えば、それだけ両者の戦力には埋めがたい差があったということだ。
4回、井上は左フックでタパレスの足を止め、左、右、左と3連打でダウンを奪った。何とかカウント9で立ち上がったものの、フィリピン人が負ったダメージは深刻なように思われた。
それでも10回途中まで立っていたのは、彼なりの意地があったからだろう。ノーモーションで放ったフックが井上の顔面をとらえるシーンもあった。
だがタパレスの抵抗もそこまで。10回、井上の渾身の右ストレートがフィリピン人の顔面を打ち抜いた。キャンバスにガックリと両膝を折ったタパレスは「降参しました」とでもいうような表情を浮かべて10カウントを聞いた。
「できることは全てやり尽くした。(最後は)起こるべくして起きてしまった」と試合後のタパレス。
世界6階級制覇を成し遂げたフィリピンの英雄マニー・パッキャオからは「相手はパウンド・フォー・パウンド(最強)だからな」と慰めのメールが届いたという。
レジェンドをもうならせるナオヤ・イノウエ。今年はサウジアラビアでのビッグマッチが予定されている。
初出=週刊漫画ゴラク2024年1月19日発売号