SPORTS COLUMN
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「ダメか・・・」阪神名スカウトが指名を諦めかけた20勝左腕とは?

Text:蔵建て男(構成・菊地高弘)

長年にわたってスカウト的観戦を続ける蔵建て男が、球団スカウト・編成担当者を直撃インタビューする連載企画。
今回はプロ経験がないにもかかわらず、25年間も阪神スカウトを務めた菊地敏幸さんが登場する。

タイガース名スカウトが惚れ込んだセットアッパーとは?(別タブで開きます)

■菊地敏幸(元・阪神タイガーススカウト)②わかりにくい投手の見極め

 菊地さんは好投手を多く発掘していますが、弓長起浩、川尻哲郎、上園啓史といった一見凄さがわかりにくい投手もいます。見極めるポイントはありますか?
菊地 弓長は大したボールは投げないのに抑えるので、他のチームに「なんで打てないんですか?」 と聞いたんです。そうしたら、球がめちゃくちゃ動くという。本人と話してみたら根性が据わってい るし、プロ向きの性格でした。阪神は左の中継ぎが手薄だったので、「一回りなら絶対に使えるな」 と思いました。

 川尻はどうでしょう?
菊地 亜細亜大では小池秀郎(元近鉄ほか)や高津臣吾(元ヤクルトほか)の陰に隠れていましたが、日産自動車ではリリーフで活躍していました。12球団の評価は高かったのですが、都市対抗の本戦で打たれて評価が下がりました。
でも、私は「自分は『太く短く』です」と言っていた川尻の性格はプロ向きだと思いました。他球団が手を出さなかったので、4位で獲れました。リリーフのイメージでしたが、まさかプロでノーヒットノーランを達成するとは思っていませんでした(笑)。

 上園はいかがですか?
菊地 4年春のリーグ前に明治大とのオープン戦を見たんです。明治のレギュラークラスのインコースをどんどん突いて、バットを何本も折っていました。気風のよさとテンポが抜群で、「これは使え る」と思いました。リーグ戦に入ると、当時の武蔵大は高いレベルの投手が上園しかいないため力を 抜いて投げていたんです。知名度も実績もないので、なんとか上を説得して大学生・社会人3巡目で 指名しました。活躍した時期は短かったですが、新人王を獲ってくれてよかったです。

 3人に共通するのはマウンド度胸のよさのように感じますが、性格面は重視しますか?
菊地 昔、名スカウトと呼ばれた木庭教さんに「選手のどこを見て評価していますか?」と聞いたことがあるんです。木庭さんは「わからん」と言いました。「結局ワシだって、失敗した選手のほうが 多いんじゃ」と。木庭さんほどのレジェンドでもそうなんです。
技術的、身体的に見るところはみんな一緒。あとは性格しかありません。弓長、川尻、上園はマウンドの雰囲気や表情を見ていれば強い 意志があるとわかりました。気をつけなければいけないのは、自分を大きく見せようとするタイプ。 そういう選手は意外と小心者で、ピンチになると落ち着きがないんです。


2003年に20勝を挙げてMVPを受賞し、
18年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した
井川慶

 菊地さんが担当した井川慶はハートが強いタイプでしたね。
菊地 ちょっと感覚が独特でしたが(笑)。井川は高校3年春に惚れ込みました。ズドーンと力のあるストレートで、7イニングを投げて17〜18奪三振。細かい動きはできないんですが、のっしのっしと歩いて大物感がありました。ただ、夏は腰の成長痛でロジンバッグを拾うのもつらそうなくらいで、 「ダメか……」と思っていました。
でも、あきらめきれずに水戸商の監督を通して大阪の病院で検査を受けてもらって、問題ないと診断を受けたんです。理解のある上司が2位で獲ることを決めてくれました。

次回「菊地敏幸(元・阪神タイガーススカウト)③人気球団特有の難しさとは」へ続く
(初出:【野球太郎No.033 2019ドラフト総決算&2020大展望号 (2019年11月27日発売)】)

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