蓄積させた力を一気に解き放ち、爆発的な破壊力を生む
速戦即決が大事とはいえ、なんの下準備もなしに戦端を開くのは愚の骨頂である。戦争には敵を分断する裏工作と勢いも大事で、これらは速戦即決を図る際の前提条件でもある。
分断工作は敵が隊列を充分に整えるより前に行なうのが効果的で、目立った弱点をつくれなくとも、連携を鈍らせるだけでも充分である。先鋒と後衛の連携、上官と兵の関係をぎくしゃくさせるだけでも、攻撃する側にはありがたいからである。
そして、いざ攻撃開始というときには、精一杯引き絞った大弓を放つがごとく、せき止めてためていた水を一気に押し流すがごとくに行なわなければならない。
川の水はふつうに流れているときは岩を撫でるばかりだが、奔流となったときは岩をも砕く威力を発揮する。この力を利用しない手はない。兵の力もそれと同じで、勢いに任せて進撃させれば、常時の十倍にも及ぶ力を発揮する。
兵力が互角であっても、分断工作と勢いを借りた攻撃で一気に均衡を崩すことができる。それこそ一気呵成のなせる業である。
それを成功させるためには速すみやかな進軍と統制が行き届き、上下の心が一つになっていることと、敵軍の内部に乗じる隙のあることが前提条件でもある。隙がなければ、なんとしてでもつくらなければならない。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.26