建築家・東孝光が都心から離れなかったワケ
地価の高い都会で大きな家を持つのは難しいものです。しかし狭い土地に建つ小さな家、いわゆる狭小住宅にも、素晴らしいものがたくさんあります。そのさきがけが、建築家・東孝光の自邸「塔の家」です。
東京の都心、青山キラー通りの道路拡幅で生まれた約6坪(20・5平方メートル)の三角形の残地。更地の状態で見れば、ここに住むイメージは起きないでしょう。
塔の家は、この場所に地下1階、地上5階建ての住宅として建てられました。現在は高い建物に囲まれていますが、竣工当時は、塔のようにそびえていたのです。平面図を見ると、ほとんどが階段です。まるで踊り場が居室のようですが、内部に入ると印象はがらりとかわります。
階段の蹴込(踏板と踏板の垂直部分)がなく、さらに吹抜と階段が一体になっていることで、開放的な空間に見えるのです。その結果、中階が下階と一体化し、さらに上階とつながるので、各階が独立した部屋ではなく、全体で1部屋であるかのような印象になっています。
たとえば銅板葺きの壁面にフラットルーフを設け、洋風に見せている一方、雨戸の戸袋には、銅板の柄に江戸小紋が細工されている、といったことがあるのです。当時の職人の腕の見せ所だったのかもしれません。
そして玄関以外にドアはありません。トイレも浴室もドアはなし。ワンフロア・ワンルームに見えますが、全体が縦方向につながるワンルームともいえるでしょう。音や視線のプライバシーも、高さによる絶妙な空間構成で緩和されています。
東孝光は、映画館や美術館などの文化施設があり、デパートや老舗で買い物ができ、友人も多い都市で暮らしたかったそうです。近年、田舎に一度隠居した高齢者が都市に帰ってくる例が近年増えていますが、その先行例だったといえるかもしれません。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2021.11.23
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