おじぎをして見上げると仏界が見えてくる
お寺のお堂に入ると、多くの場合、須弥壇の上に南を向いた仏像が鎮座しています。壇上は仏様の専有空間(内陣)です。わたしたちが入れるのは一段低い床までで、外陣と呼ばれます。
外陣が殺風景な板張りなのに対し、内陣の天井には極彩色の蓮花や金雲とともに仏たちの世界が描かれており、浄土を表しています。
このお堂にも須弥山図が隠れているのがわかるでしょうか。図では海上にそびえる須弥山の南に、人間たちの住む南贍部洲という島が浮かんでいます。お堂正面にある須弥壇を須弥山とすると、礼拝する座布団が南贍部洲にあたるのです。
天井の浄土から仏たちが壇上に降りてくるのを、私たちが迎える、という須弥山図の姿が仏堂の内部に再現されているのです。
僧侶の人たちがするように、座布団に正座しておじぎをしてみましょう。座礼をすると視線は下に向かい、外陣の床が目に入ります。殺風景な板張りは、この世を表したものです。
そこから頭をゆっくり上げていくと須弥壇、つまり須弥山が見え、さらに目線を上げれば壇上の忉利天に達し、迎えに来てくださった仏たちと目を合わせます。ちなみに忉利天は、私たち人間が修行によって自力で到達できる世界の果てです。視線の先に映る内陣の天井、つまり浄土に至るには、仏の案内が欠かせません。
このように礼拝は浄土に至る道筋を体現することであり、お堂はそのための器なのです。ですから、お堂では必ず正座して礼拝することをおすすめします。座る位置、視線の動きによって目に映るもの、その一つ一つの変化が仏の世界へのいざないなのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2021.11.29