深海900mの深さに匹敵する金星地表の気圧
地球上で最も深い海はマリアナ海溝で、深さは1万920m もあります。海底では、深さ1000mあたりで100気圧という圧力がかかっているので、マリアナ海溝では約1000気圧もの圧力がかかっていることになります。地球の地表では、0mで1気圧です。とすれば、深さ1000mの海底では、その100倍の圧力がかかっていることになります。当然ですが、この深さで生きている深海魚が海面まで上がって来ると、圧力が低いために死んでしまいます。
金星は、大きさは地球よりもやや小さいのですが、質量は地球の約0・82倍で、大きさも質量も密度も、太陽系の惑星の中では最も地球に近い地球の姉妹星です。ですが、金星の地表の気圧は0mで1気圧ではなく、90気圧もの圧力がかかっているのです。地球の海でいえば、深さ900mの深海底に相当する、ものすごい圧力です。
これは、地球の大気がチッ素と酸素からできているのに対して、金星の大気が濃度の高い二酸化炭素(〜96 ・5%)からできているためです。また、金星の地表温度は、地球の標準的な地表温度が25℃(平均気温は15℃)であるのに対して約460℃、灼熱の地獄です。このような環境下では、人類はもちろん生物はとても生きていけません。もちろん、液体の水からできている海も存在していません。
なぜ、このように地球と金星の表面は環境が違うのでしょうか?金星が地球よりも太陽に近いということもあります。それもありますが、最も異なる要因は大気の組成です。近年、地球では大気中の二酸化炭素が増大したために地球温暖化が進行しているといわれています。二酸化炭素には熱を閉じ込めておく温室効果があります。金星の大気は二酸化炭素からなるので温室効果が高いのです。
地球の自転周期は約24時間ですが、金星の自転周期は243日ときわめておそいのです。ですから、金星の片面は長時間にわたって太陽によって温められている。これらも金星の表面が高温であることの要因となっていると考えられています。
地表環境や自転速度の違い以外に、地球と金星の大きな違いとして挙げられるのが磁場です。地球にはきわめて強い双極子磁場がありますが、金星の磁場は大変に弱いのです。とすれば、金星の地表では方位磁石はあまり役立たないでしょう。もっとも、金星の表面は深海底の圧力がかかる灼熱地獄ですから、人間がそこに降り立つことなど、ほとんど不可能ではありますが……。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 地学の話』
【書誌情報】
『図解 地学の話』
著者:高橋正樹 他
地学は「地球を対象とする自然科学」の学問。ジャンルが幅広く興味深い話題も多い。地球の誕生から、火山や地震のメカニズム、異常気象や天気図、地層・化石まで、「地球物地学」「火山学」「気象学」「地質学」の4テーマに分けて解説。図解で楽しくわかりやすく勉強になる1冊。
公開日:2022.02.11