「ユニバーサル・アクセス権」
サッカー日本代表が7大会連続7度目のW杯出場を決めたアウェーでのオーストラリア戦(3月24日)がテレビ中継されなかったことで、「ユニバーサル・アクセス権」という言葉が、にわかに注目を集めるようになってきた。
「ユニバーサル・アクセス権」とは、ひらたく言えば、誰もが自由に情報にアクセスできる権利のことを言う。
後半39分から出場したMF三笘薫の2ゴールにより、日本が2対0で勝利した先のオーストラリア戦は動画配信サービスのDAZN(ダゾーン)でしか見ることができなかった。試合を観るために、慌てて月額3000円(税込)の料金プランに加入した人も多かったのではないか。
大一番のオーストラリア戦に限らず、今回、アウェーでの代表戦は全てDAZNのみの中継となった。なぜ地上波から消えたのか。
その背景には高騰する放送権料がある。アジアサッカー連盟(AFC)が中国とスイスの合弁会社「DDMCフォルティス」との間で2021年に結んだ契約は8年総額20億ドル(約2300億円)。05年からAFCと4年単位で契約を更新してきたテレビ朝日は、直近(17年~20年)でも4年総額180億円だったというから、実に5倍以上の高騰である。
しかもアウェー戦は時間帯が深夜に及ぶことが多く、スポンサー収入に見合うだけの視聴率が望めない。それでなくてもコロナ禍によりCMの出稿料は減っている。採算の取れないコンテンツから地上波が撤退するのも当然と言えば当然だろう。
スポーツが「公共財」としての地位を得ている英国で「ユニバーサル・アクセス権」が確立しているのは、スポーツを始めとする世界の主要イベントの視聴が「基本的人権」の一部と見なされているからである。
英国において放送権の自由な売買が制限されているのはサッカーW杯(決勝トーナメント)だけではない。「クラウン・ジュエル」(王冠の宝石)といって五輪、テニスの全英選手権決勝、ラグビーW杯決勝、競馬のダービーなども、その対象になっている。
市場を優先すべきか、それとも公共性を大事にすべきか。悩ましい問題だが、日本国憲法25条には、こうある。
<すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。>(第1項)
スポーツの世界的イベントを見る権利は、それに該当するのか、しないのか。「ユニバーサル・アクセス権」を巡る議論は緒に就いたばかりだ。
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初出=週刊漫画ゴラク2022年4月22日発売号