井上尚弥「圧勝」。3団体統一王者【二宮清純 スポーツの嵐】

速い、重い、鋭い
「ドラマにするつもりはない」
宣言通りの完勝、いや圧勝だった。
6月7日、さいたまスーパーアリーナで行われたWBAスーパー、IBF王者の井上尚弥とWBC王者ノニト・ドネアとの世界バンタム級王座統一戦は、井上がフィリピン人を2回1分24秒TKOで下し、日本人初の3団体統一王者となった。
2019年11月以来、2年7カ月ぶりの再戦だった。この時も井上が勝利(判定)したが2回にドネアの左フックをくい、眼窩底骨折を負った。
右目の視界を遮られた井上は、残された左目の視力だけを頼りに戦った。それほどのハンディを負いながら、11回に左ボディでダウンを奪い、大差の判定勝ちを収めた井上の底力は、「モンスター」そのものだった。
しかし、苦闘の末の勝利は本人には不本意だったようだ。彼我のレベルの違いを見せたい、との思いは「(ドネアには)自分との戦いを最後に花道をつくる」との強気な言葉にはっきり表れていた。
「4団体統一という目標に向けて、自分の中では通過点に過ぎない」
5階級王者も眼中にない、と言わんばかりの口ぶりだった。たとえ自らにプレッシャーをかける意味があったとしても、口に出した以上は責任を伴う。それを引き受ける覚悟が、異次元の強さの源泉なのかもしれない。
ドネアの左は鋭い。初回、井上のガードを割って、いきなり飛び込んできた。
「これで目が覚めた」
ラウンド終了直前に右のクロスカウンターで、ドネアに尻もちをつかせた。
2ラウンドに入り、井上はアクセルを踏み込んだ。開始早々、左フックでぐらつかせ、ドネアにロープを背負わせる。再び左右の連打で決定的なダメージを与え、左フックでフィニッシュした。
速い、重い、鋭い。井上のブローにはナイフの切れ味とナタの凄みが同居している。野球のピッチャーで言えば、一球一球全てが決め球なのだ。
ボクシング界のレジェンドで、日本人初の2階級制覇(フライ、バンタム級)を成し遂げたファイティング原田は、息をもつかせぬ連打から“狂った風車”の異名を取った。
時代が異なるため、一概には比べられないが、井上の暴風雨のようなラッシュの迫力は、原田以上かもしれない。
「年内に4団体統一を」
残るひとりはWBO王者ポール・バトラー。英国の“童顔の暗殺者”も、モンスターの前では、ひとたまりもあるまい。次もドラマには期待しない方がいい。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年6月24日発売号
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