フライパンを真っ二つ
ボクシング元世界3階級制覇王者の亀田興毅は現役時代と引退後で、イメージが激変した。
現役時代の役どころは、プロレスでいうところのヒール。父・史郎の方針もあり、試合のたびに派手なパフォーマンスを披露した。
2006年5月、カルロス・ファハルド(ニカラグア)とのWBCフライ級王座世界前哨戦の前日計量で、ファハルドの顔写真を貼り付けたフライパンを「おりゃ!」と叫んで両腕で真っ二つに折り、報道陣を驚かせた。
過日、久しぶりに会った際、その舞台裏を明かしてくれた。
「最初のフライパンはめっちゃ硬かった。曲がれへん。こっちは減量でフラフラなのに。オヤジに“オマエ、力ないなァ”と言われましたよ。それで、“100均”に行ってオモチャみたいなフライパンを探してきた。もうペラペラ(笑)。女の子でも曲げられる。それでバレんように顔写真を貼り、思いっきりオーバーアクションで曲げた。家で3回くらい練習しましたよ(笑)」
もちろん、これは全て父・史郎の演出。「あの人、プロデューサーですわ」と言い、亀田は続けた。
「マスコミの前で、素直に“頑張ります”と言ったところで、誰も記事にしてくれない。スポーツ紙なんて野球とサッカーの記事ばかりやから。ボクシングは格闘技コーナーにまとめられ、ページを何枚も繰らないと出てこない。それで“フライパン行け!”“チキン食うたれ!”となったんですわ(笑)」
全ては計算尽くでやっていたことなのだ。
その裏には「ボクシングをメジャーにしたい」という思いがあったという。
「僕が一番、尊敬しているボクサーは(世界フライ級、バンタム級)2階級制覇王者のファイティング原田さん。当時は団体がひとつで、クラスも8つしかなかった。実際はフェザー級(オーストラリアのシドニーで王者ジョニー・ファメションから3度もダウンを奪いながら、あからさまなホームタウン・ディシジョンにより引き分け)も獲っていたわけだから、今なら(間のクラスも入れて)5階級制覇ですよ。
プロ野球の長嶋茂雄さんや王貞治さんと同時期に活躍しながら、原田さんの扱いは未だに小さい。ボクシングが、まだまだマイナーな証拠ですよ。まずは選手のファイトマネーを倍にしたい」
ヒールから実業家へ。現在はプロデューサーとしてボクシングの「キング・オブ・スポーツ」化に取り組んでいる。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年9月22日発売号